新雪踏みしめ北八ガ岳スノーハイク 
                         1997年1月3日(金)雪のち曇り〜4日(土)晴れ

 雪山は素晴らしい。今冬は各地とも積雪量が少なくスキー場は大変そうだ。北八ガ岳の雪山の魅力は色々な雑誌で紹介され是非とも行ってみたいところであった。年末年始ならトレースもしっかりしており、初心者の私も行けるだろうと数回の山行で気心の知れたMさんと計画し遂にその日はやってきた。
 初日は結構な降雪があり、登山道は新雪で気持ち良かったが吹きつける風は冷たかった。黒百合ヒュッテでは南米のケーナと言う楽器の演奏会で満足し、2日目は絶好の好天気。太陽に輝く樹林帯の雪、雪、雪、そして天狗岳からの素晴らしい眺望と北八ヶ岳を心ゆくまで堪能した山行であった。

  稲子湯登山口…しらびそ小屋…中山峠…黒百合ヒュッテ(泊)…中山峠…東天狗岳…根石岳…
   0900       1100-1140   1310    1315(泊)    0715  0720 0807-0815   0835 
   夏沢峠……本沢温泉…しらびそ小屋…登山口
   0930-0940 1010-1035    1135-1200   1245


 近場での冬山経験はあるものの、北八ヶ岳となるとその緊張感、不安も大きい。防寒対策は、装備は、非常食は…と悩みはつきないが、それなりに本や登山店で知識を仕入れ準備は終了した。準備段階からもう心は雪の八ヶ岳。コースは初心者でも比較的安心で年末年始ならラッセルも必要でないであろうと思われるしらびそ小屋経由とした。天候不順、道が不案内、ラッセルが必要、その他諸々無理だなと思ったら途中で引き返すとの打ち合わせでいよいよその日はやってきた。

 Mさんは前日我が家に前泊し最後の打ち合わせはバッチリだ。心地よい酔いで睡眠も充分。5時20分に伊勢崎を出発。下仁田、佐久経由で交代で運転し稲子湯登山口に到着。途中からかなりの雪となり時に吹雪状に吹き荒れる。いやあ、困ったなあと様子見で車内待機。みるみる積雪してくる。駄目かなあ…約40分待機しラジオから流れる天気予報に耳を傾ける。「冬型気圧配置、低気圧は東へ去り、雪は止むよ」って告げており回復を信じて9時、登山届けを提出しいざ、出発だ。

 最初は林道を何回か横切り緩やかに登る。積雪した新雪の下、路面は僅かに凍結しており慎重に歩く。カラマツの紅葉時期は綺麗だろうなあ。林道を過ぎ、降りてくる人と出会う「上の方は雪はどうですか?」などと情報を仕入れる。ラッセルの心配は無さそうだ。寒いが快適な歩きで「はっても30分」のこまどり沢に到着。ここから樹林帯の結構な登りである。しかしアイゼンはまだ不要だ。木々に積もった新雪はふわふわと純白で見事と言うしかない。「いいねえ、最高、こんな雪景色は初めてだ」などと話を交わす。そしてリスや小鳥も姿を見せるというしらびそ小屋に到着。

 小屋に入り休憩量200円を払い暖かいストーブで暖をとりおにぎりで昼食。あまりに気持ちよくついつい長居をしてしまった。「にごり酒」の表示に気もそぞろだがまだ先があり後ろ髪引かれつつ断念する。みどり池は真っ白くひっそりと冬の様相、そして天気が良ければ見えるであろう天狗岳は全く見えない。リスや小鳥も今日は寒くて家で縮こまっているのか出てきそうにない。小屋に飾っている写真でその様子や展望を想像する。小屋前の温度計は−8度を表示している。

 小屋からさらに緩やかな道で本沢温泉への道と分岐し、いよいよ今日の最大の急登をジグザグに登る。時々針葉樹に積もった雪が風で吹き飛ばされ容赦なく二人に降りかかる。しかしそれも又楽しである。途中数回の休憩を行い、ようやく中山峠に到着。風が強い。天狗岳方面から来た人と情報交換。今日は風が強くて登れないようだ。明日は大丈夫だろうか。雪はやみつつあるものの風は強く、以前天気は思わしくない。

 中山峠から黒百合ヒュッテ迄は平坦な道である。しかしここら辺りの木々に付着した雪は寒さと強風のためかふんわりと言った感じでなく堅く毛羽立った感じだ。そして一面の雪原の中、暖かそうな黒百合ヒュッテ到着。数張りのテントが冬山の雰囲気を盛り上げている。写真を取り合いしばし雰囲気を味わう。しかし一面の雪景色以外通常見えるという天狗岳はまったく姿を見せない。雪を落とし小屋に入り先ずは受け付け。中央部にでんと構えるストーブは暖かそうだ。荷物は三階、寝るのは二階、食事は…と説明を受ける。まだまだ夕食まではだいぶある。付近を散策しようにもこの寒さ、一旦靴を脱ぐともうその気力はない。しかしこののんびりと過ごす時間も山小屋の魅力だ。持参したビールやウイスキーを嗜み楽しい話題は事欠かない。

 そしてふと目をやると暖かそうなコタツが目に入った。そちらに移動しちびちびやっていたら眠くなってきた。そして夢うつつ……目覚めると沢山の人達、結構混んできたようだ。そして寝る場所の説明を受ける。2階の大部屋の真ん中隅の方、まずまずの場所に満足。食事までそこでくつろぐ。そして食事。後は寝るだけ…と思っていたら「ケーナ」という南米の楽器の演奏会があるよっと紹介があった。

 テレビでの天気予報に皆しーんと聞き入る。なんとなく期待できそうな予報に一同、何となくホッとした雰囲気だ。そして定刻開演、ランプの明かり、そして暖かいストーブ、今か今かと待ちかまえる宿泊者の熱気。雰囲気は絶頂だ。民族衣装に身を包んだ男性が登場しいよいよ演奏が始まる。「ケーナ」とは南米の楽器で縦笛のようなものだ。そして「シャランゴその他の楽器」が登場し、明るく、時にはわびしそうに南米の音楽が情緒豊かに流れていく。なかでも「コンドルは飛んでいく」は最高だった。この小屋では他の時期も演奏会が催されているとのことであり年末年始の演奏会は今日が最後とのこと。思いがけない演奏会で満足である。

 演奏会も終了しさあ、寝よう。その前に……と外に出ると「ひや〜寒い」星は出てない。明日の山行を夢みて暖かい眠りについた。

 5時起床。外に出ると半月がうっすらと見える。雪は降っていない。寒さは相変わらずだ。6時朝食。早い人達は早々に出発準備である。そして待ちに待った夜明け。窓から外を見ていたMさんが「おっ、天狗岳がみえるぞ」やった〜快晴みたいだ。これで天狗岳決行は決まりだ。混雑を避け出発を少し遅らせ外に出る。しんしんと寒さに気を引き締める。目出帽を被りゴアの雨具の下にはフリースのジャケットを着込む。勿論ズボン下も着用している。そして6本爪アイゼン装着。さあ、これで準備万端。寒くはない。そして出発。中山峠では風は強いが、今日の快晴も約束されたような太陽の明かりを身体いっぱい受ける。こんな良い光景なら早起きして日の出を見れば良かったなあと心をよぎるが、昨日の天気から見ればそれは贅沢というものであろう。

 樹林帯からハイマツ帯となり眺望が良くなる。朝日に輝く樹氷は見事だ。素晴らしい展望に吹きつける風もなんのその山頂をめざす。まろやかな西天狗岳、岩場でアルペン的風貌の東天狗岳、山頂が近づくにつれ風が強くなる。時々ガスがさ〜と流れていく。アイゼンがキュッキュッと心地よい。ピッケルはないが凍結した所もなくストックで慎重に登る。途中鎖場があったが、その世話になることもなく快適に歩く。問題は風だけだがそれほどでもない。遠く目をやると北アルプスだろうか?浅間方面も見える。「おっ、虹だ……あっ、丸い。陰だ。ブロッケン現象だ!!」思わず岩の上に乗って手を振る。以前Mさんと谷川連峰馬締型縦走の時も見た事を思い出す。同じ人と見ることが出来るなんて最高の幸せである。

 そして遂に山頂。誰も居ない。先行者は寒いためかもう降りたのであろう。二人で素晴らしい眺望を満喫する。赤岳、硫黄岳、阿弥陀岳の南八ヶ岳が壮大である。北アルプスの山々が白く輝いて見える。甲斐駒や仙丈ガ岳も見える。いつまでも見飽きない眺望であるが、風が強く長居はしておれない。単独らしい女性が登ってきたのを潮に下山開始する。予定では西天狗岳も登る予定であったが風が強く断念する。根石岳方面にトレースが有ることを確認し行けると判断し下る。慎重に歩けば問題なさそうだ。そして鞍部に到着。広々として気持ちよいところである。予定では白砂新道をめざすつもりであったが、結構急な下りでありトレースも無い。あまりポピュラーなルートではないようだ。無理なら夏沢峠経由に変更との打ち合わせ通りルートを確認し僅かで根石岳に到着。くっきりと浮かび上がる東西の天狗岳を再度瞼に刻み夏沢峠に向かう。ここからはテレビや雑誌で眺めたこれぞ北八つといった雰囲気の樹林帯だ。一面の雪景色に感動し記念写真を取り合う。

 爆裂火口が雄大な硫黄岳を眺めながら快適に下る。そして夏沢峠着。山小屋が二軒あったが、今日で正月営業は終わりというやまびこ荘で休憩し暖かいコーヒーでくつろぐ。「今朝の気温は何度くらい?」と訪ねるとなんと「−23度くらいだった」との事。驚きである。そしてここより針葉樹林帯の中をジグザグに下る。ところどころ先行者がつけた近道で僅かな時間を稼ぐ。暫くすると硫黄の臭いがしてきて本沢温泉が近いなと感じる。露天風呂の表示にちょっと覗いてみようと脇にそれる。入ってみたい誘惑にかられるがこの寒さでは面倒くさい。雰囲気を味わっただけで露天風呂を後にし木造2階建ての立派な宿の本沢温泉のベンチで休憩、昼食とする。硫黄岳の爆裂火口とカラマツ林越しに見る白い山の景観が素晴らしい。

 温泉より僅かの間広い道を歩き登りの道に入る。そして下る。単調な歩きに飽きてきた頃右手の樹林越しに天狗岳や稲子岳が姿を現す。「まるでカレンダーに出てくるような景観だな」とMさん。これより僅かで先日通った中山峠への道と合流し、そしてしらびそ小屋着。昨日の雪で隠れていた天狗岳の風貌をしばし眺める。コガラやシジュウカラ、ゴジュウカラ。そしてトントントンと木肌をたたき続けるコゲラが目を楽しませてくれる。外の気温は−4度C。暖かい日差しで溶けた雪が屋根よりドサッと滑り落ちてきて一瞬ドッキリ。

 そして昨日と同じ道を「楽しかったねえ。又時期を変えてきたいなあ」などと話しながら登山口着。登山届けのポストに予定通り無事下山の報告を投げ込み、新雪、強風、樹氷など幻想的な風景、素晴らしい眺望といった北八つの雰囲気を満喫した寒さ厳しくも楽しい山行は幕を閉じた。