コマクサに感激 八ヶ岳        

                    1996年7月27日(土)〜28日(日)晴れ

 今年初の小屋泊まり登山は、花と展望、そして雄大な岩稜歩きが楽しめる八ヶ岳とした。初めて見る可憐なコマクサに心を奪われ、富士山や槍ヶ岳の眺望に感激し、赤岳や硫黄岳をシルエットにしての神々しいまでの朝焼けに放心し、寝ぼけ眼で眺めた満天の星空に心を洗われ、まさに山登りの醍醐味を心ゆくまで満喫した二日間であった。

杣添尾根登山口…三又嶺…横岳…硫黄岳…行者小屋泊……阿弥陀岳……赤岳……三又岳
0530       0912-30  0943 1112-1220  1430  0330  0430-0525  0630-0740 0845-0925  
 …登山口
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  八ヶ岳は沢山のアプローチが可能であるが群馬からのアクセスであり、杣添尾根からとした。前夜伊勢崎を発ち、静まり返る別荘地を過ぎ、登山口の駐車場に到着。7台くらいは停めらる。リアシートを倒し横になれるようにして車中泊だ。途中で仕入れたビールを飲みながら月を眺める。明日は快晴みたいだ。

 賑やかな鳥の声に起こされ時計を見ると5時であった。ちょっと出遅れたか、慌てて食事を済ませ5時半に出発だ。最初は標識に導かれ別荘地の中を進みやがて林道に出て杣添尾根への取り付き点だ。「先は長いぞ〜」の標識に気を引き締めいよいよ樹林帯の長〜い一本調子の登りが始まった。行けども行けども同じ様な針葉樹林帯にちょっと気が滅入るが暑い日差しを受けずに済み、適当に休憩をとりながら進む。ダケカンバが多くなる頃ふと右手を見ると富士山が見えた。ここら辺りから見る富士山はいつも見るより大きく見える。現金なもので富士山が見えると元気が出てきた。
 ぼちぼち横岳の稜線が見えだし、ダラダラ登りからの解放だ。樹林帯を抜けるとどーんと赤岳、横岳が顔を覗かせる。う〜ん、素晴らしい展望だ。一気にハイマツの急登を過ぎ、三叉峰に到着だ。迎えてくれたのは歩行欲をそそる縦走路と可愛らしいイワヒバリの親子だ。ひと休みしていると僅か1m位まで寄ってきた。感激

 今迄の登りでは殆ど人に出会わなかったが稜線に出ると一気に人出が増えた。やはり人気の山だなあ。本日の縦走の核心部、横岳への道を小同心、大同心を左手に眺めながらちょっとした鎖場、梯子を楽しみ進む。しかし鎖がないと登れないと言うような感じではなく気を付けて歩けば問題ない。ただ、悪天候時などは特に西面がスッパリ切れ落ちており最大の注意が必要だろう。

 鎖場を過ぎると砂礫状の道になり、台座の頭付近はコマクサの大群落だ。夢にまで見たコマクサとの初対面……来て良かった。綺麗だなあ。どうしてあんな砂礫の中に育つんだろうとちょっと疑問を感じながらもその生命力に感心し満足満足。そうそう、コマクサだけでなくチシマギキョウも沢山咲いていた。

 やがて硫黄岳との鞍部に立つ硫黄岳山荘に到着。記念のバッジを買い、高山植物園を散策する。しかし花はあまり多くはなかった。ここから硫黄岳までは緩やかな登りである。大きなケルンはガスがかかったときなど心強い見方であろう。頂上は何処が山頂か分からないようなだだっぴろいところである。沢山の人が思い思いの場所でくつろいでいる。北側の爆裂火口は壮観である。素晴らしい眺めだ。イワヒバリが囀っている。ここで昼食とする。朝早かったためか睡魔が襲ってきてひと眠りだ。頬をなでる風が心地よい。

 十分な休養と展望を満喫し眼下に見える行者小屋めがけて出発だ。瓦礫の道を注意して下る。黄色いシャクナゲが所々目を楽しませてくれる。赤岩の頭では標識に群がって写真を撮っているグループがいる。近より難くそのまま直進する。これが今日唯一の反省点であった。小屋はあっちの方だし、ちょっと感じが違うなと思いながら歩いてるとなんと「峰の松目」への標識。やはり間違っていた。地図を確認し戻る。それほどの坂でもなかったが、時間にして僅か15〜20分のロスであったが道を間違え気落ちした私には相当にこたえた。やっとの事で分岐に到着。ここでゆとりを持って標識を確認してればまったく間違えるようなところではない(反省)

 気を取り直し快適に樹林帯の中を下る。ツイーツイーピッピッピと頭は黒く胸が赤っぽい鳥が鳴いている(何て言う鳥だろう?)そしてジョーゴ沢に到着。気持ちよさそうな水の流れ、手ですくってのどを潤す。思ったほど冷たくないが渇いた喉には最高だ。僅かで赤岳鉱泉に到着。色とりどりのテントが並び思い思いにくつろぐ人達。美濃戸から到着する人達で賑やかだ。さあ、後一息だ。僅かの登りだが疲れているのか思うように足が進まない。でもまだまだ時間は早い。ゆっくり歩く。そしてようやく小屋に到着。
 ここにも沢山のテントやくつろぐ人達だ。入口の水場ではビールやジュースが冷やされている。思わず手が伸びる。ひや〜っ、冷た〜い。赤岳鉱泉の水よりはるかに冷たい。何故こんなに違うんだろう?

 早速宿泊の申し込み。朝食は5時半頃との事である。場合によっては日の出を見たいし弁当を用意してもらうこととした。割り当てられた部屋(区画)に荷物を起き、ちょっと横になる。ああ、気持ちよいなあ。程良い疲れ具合いだ。今日は混んでるとのことであったが、ひと区画に4人。割とゆったりであった。後の3人も単独行の人ばっかりであり気楽であった。山小屋の配慮であろう。大体の小屋はこうして単独の人は同じブロックに集めるのであろうか?

 夕食までのひととき、知り合った人と楽しく談笑する。ふと背後から「おう、○○」と声を掛けられ振り向くと、何と同じ会社の人である。奇遇に話が弾む。横岳の稜線が見事だ。日暮れ時には太陽が雲に隠れ夕焼けは見れなかったが、時々雲間から覗く太陽が山肌を照らしガスと相まって幻想的な雰囲気を醸し出している。日が暮れて横岳の上から月が顔を出した。にわかカメラマン達のカメラの放列だ。素晴らしい景観にあちこちから歓声が上がっている。

 こうして一日が終わり就寝となった。山小屋の夜は急にやってくる。まだ8時なのに大多数はもう寝ている。しかし、団体の一群が賑やかに宴会気分で騒いでいる。どうして集団になると人々は身勝手になるんだろうか、みんな多分我慢してるんであろうが、注意されないから騒いでも良いとでも思っているんであろうか。しかし、無言の非難に気付いたのか、長続きはせずいつの間にか終わっていた。寝らなけりゃあと思うほど寝れなくなり、あちこちからの鼾に悩まされる。また寝言も結構聞こえてくる。耳栓忘れたあ。残念、寝らなけりゃあ、寝らなけりゃあと思っている内にいつの間にか寝てしまった。気付いたときは3時であった。

 数分も手を付けておれないような冷たい水で顔を洗う。いっぺんで眠気が吹っ飛ぶ。空を見上げると満天の星空だ。これこれ、この星空だよね。都会では見られない輝きだ。素晴らしい!!
 ライトを点けテント場の脇を通り中岳道経由で阿弥陀岳を目指す。昨日、道を確認していたのでどうにかルートを探し当てたが、ライトの明かりだけではちょっと分かりにくい。数人が先に出ていったが、赤岳を目指してるようだ。先を行く人は誰もいない。まだ鳥も寝静まっており静寂が森を包む。ちょっと不気味な感じだ。途中、分岐らしきところで右に入っていったが、枯れた沢のようで間違いに気付き戻る。視野が狭くちょっと不安だ。キョロキョロと周りに注意してゆっくり進む。文三郎道の方にライトが点々と見える。先に出た人達であろう。頑張ろうなと声援を送る。

中岳の鞍部に着く頃には空が明るんできた。急がなければ……鞍部にザックをデポし岩の多い急登を山頂を目指す。空がだんだん明るくなってくる。赤岳のシルエットが素敵だ。4時30分ようやく到着。誰もいない。早速カメラを三脚にセット、写真を撮りまくる。朝焼けに感激したものの、日の出は雲の為いつの間にか太陽が顔を覗かせたと言った感じだ。赤岳山頂では沢山の人が日の出を眺めている(双眼鏡で見えました)。こちらは立った1人。静かにそして厳かに7月28日は幕を開いた。

 山頂からは南アルプス、北アルプス、おう、あれは槍ヶ岳ではないか。富士山も見える。作ってもらった弁当を食べるのももどかしく素晴らしい展望に見とれてしまい、ちょっと寒かったが1時間も居座ってしまった。さあ、下山しよう。朝露に濡れたチシマギキョウが生き生きしている。鞍部には数人の人達がたむろしている。昨日知り合った夫婦も登ってきていた。朝焼けが素晴らしかったですよと感激を伝える。「え〜っ、早起きすれば良かった」と残念そうだ。「ウッフッフ」と心の中でひとり優越感に浸る。

 さあ、赤岳に向けて出発だ。途中で出会った単独行の人と展望を楽しみながら登る。この人はやはり夜明け前に登ってきたが、地蔵尾根を登るつもりが文三郎道に入ってしまったそうだ。岩屑のゴロゴロした岩稜を慎重に登る。山頂手前で「お〜い、○○、お早う」「ほら△△もいるぞ〜」「お早う」と上の方から声がかかった。見上げると昨日出会った会社の人だ。お供の女性もいる。そしてもう一組会社の若者夫婦だ。こんな山頂で同じ会社のグループが3組も偶然遭遇するなんて本当に奇遇だ。しばらくその奇遇さや、素晴らしい展望、朝のすがすがしさに話が弾む。もう二度とこんな事無いだろうねと記念の写真を取り合う。
 南峰の山頂は凄い人出だ。ゆっくり景色も見ておれない。「また明日から都会の雑踏の中か、嫌だねえ。じゃあ」と別れを告げ北峰にむかう。こちらも人が多い。
 
赤岳展望荘までの下りは痩せた岩稜、岩の急斜面で歩きづらい。鎖も有るが、沢山の人出でちょっとした混雑だ。展望荘を過ぎ西側の地蔵尾根方面の岩が素晴らしい景観だ。ここから三叉峰まではところどころ鎖に助けられ沢山の高山植物や、ごつごつした岩場の上り下り、険しい山容の景観が楽しめる。やがて三叉峰に到着。昨日出迎えてくれたイワヒバリは今日は見えない。これで楽しい八ヶ岳登山は終わりかと思うとちょっと寂しい。
 昨日の行程を振り返り横岳から硫黄岳、そして阿弥陀岳から赤岳の縦走コースをしっかりと瞼に焼きつけ「また来るぞ〜、今度は展望荘か頂上小屋に泊まるぞ」と心に誓い、長い杣添尾根を下山開始する。下りは快適である。途中二組と出会っただけであるが、そのうち一組は何にも荷物を持ってない、全くの手ぶら、靴も運動靴といった格好の3人組である。一体何を考えて登っているのか疑問である。まさかあの格好で山頂まで行くつもりであろうか?まさか〜と思ったが、この尾根歩きは途中になんにも見るようなところはない。ただ無事を祈るだけである。

 途中、鳥の声や、苔むす樹林帯を楽しみながら歩いていると登りのきつかった事が嘘のように思えてくる。下りは僅かで登山口に到着。程なくザーっと突然の雨。通り雨であろうか。

 こうして楽しい八ヶ岳登山は幕を閉じた。天候に恵まれ素晴らしい展望とコマクサや沢山の高山植物、変化のある縦走路、満天の星空etc と心ゆくまで堪能した登山であった。また登ってみたい山である。