もう最高 眺望、噴煙、花の那須連峰

 もうすぐ梅雨だ。その前に那須でも行って来るかと久しぶりの早朝出発である。噴煙を上げる「茶臼岳」アルペン的な岩肌のニセ穂高こと「朝日岳」どっしりとした「三本槍岳」の縦走に心は躍る。
 素晴らしい展望と花々が楽しめそうだ。もしかして峰の茶屋では名物?の突風も体験できるかなと思いを馳せ、ひたすら東北自動車道を突っ走り那須ロープウエイ-山麓駅に到着。ひんやりした冷気とカッコウやウグイスの声に迎えられ楽しい一日は幕を開けた。
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【登山日】  1996年6月 8日(土)曇りのち晴れ
【山  名】  那須連峰縦走 朝日岳(1896m)三本槍岳(1917m)茶臼岳(1915m)
【同行者】  単独             
【行  程】  ロープウエー山麓駅…峰の茶屋…朝日岳…清水平…三本槍岳……大峠…
         0715  0805-10  0845-55   0925  1000-15  1100-15   1210
        赤岩沢…三斗小屋温泉…避難小屋…峰の茶屋…茶臼岳…山麓駅
         1230-1320  1410     1430-40   1515-20        1600
【参考書】  栃木県の山100(随想社)
【地  図】  1/25000図 那須岳
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 明日の山行に興奮し眠れない耳元にしとしとと雨の音。雨でも行くぞ〜っと決意し、ようやく寝入ったと思ったらすぐに朝であった。泣く子も黙る丑三つ時よりはちょっと遅いがすやすやと寝ている妻とタックンに「行って来るよ」と小さく囁きいざ出発。幸い雨はあがったらしい。天気予報では今日は持ちそうだ。快適走行で高速を降りたとたん、ポタリポタリと雨が…そして結構降りだした。参ったなあと思い走ってるうちに雨はやんだ。那須高原有料道路では早いせいか係員が不在である。
ゲートも無く早朝は徴収していないらしい。僅かでデーンとそびえ立つ朝日岳と茶臼岳が見えてきた。山麓駅の駐車場に停めロープウエイの時間を確認する。登りは8時30分が始発、下りの最終は16時30分とある。登りをロープウエイ利用と考えていたがまだ約2時間もある。途中で買ったパンをほおばりながらコース選定。峠の茶屋経由とし茶臼岳は最後にしようと決める。

 山麓駅の北側の歩道を歩き始めるとカッコーやウグイスの鳴き声が賑やかだ。僅かで峠の茶屋駐車場に到着。ここまで車で来れば良かったかなと思いながら眺めると結構な車の数だ。やはり人気の山だなあと感心する。登山指導所に計画書を提出し今日一日の安全を心に誓いいざ出発だ。しかし久しぶりの山行で心は軽いが足取りは重い。今日の行程は長い。ゆっくリズムで色鮮やかなツツジや異様な山容の朝日岳、あれは噴煙かなと茶臼岳を眺めながら石のごろごろした道を歩く。やがて各コースの分岐となる峰の茶屋に到着。今日は名物?の強風は全く無い。ちょっと残念な気持ちだが心地よいそよ風が汗をかいた体に爽やかだ。

 今から登る朝日岳方面のごつごつした山容に見とれながら剣が峰の山肌を巻き、急登の後、岩肌に取り付けられたクサリ場を足を滑らせないように注意して進む。雨や強風時はちょっと怖そうだが今日は全くの無風だ。途中振り返れば遠く雪を被った山々が見える。雲海のような感じでガスがかかっており、素晴らしい展望に疲れも忘れて眺める。やがて三本槍岳方面との分岐に到着。ここのベンチにザックをデポし朝日岳をめざす。ほんの僅かで展望の良い山頂に到着。南に噴煙を上げる茶臼岳、北には気持ちよさそうな清水平から三本槍方面への斜面が見える。眼下にはヤマザクラが綺麗だ。遠く目を転じれば吾妻連峰であろうか、青空ではないものの360度の眺望である。休憩中の単独行氏と話が弾む。素晴らしい眺望と単独行氏に別れを告げ、ハイマツの中を清水平をめざす。途中のピークではカッコーが鳴きながら目の前を飛んでいった。こんなに近くで見たのは初めてだ。感動!!

 粘土質で滑りそうな坂を下り木道になる。休憩していると先ほどの単独行氏が追いついてきた。三本槍岳迄の同行と思っていたが結局この人と今日は殆どの行程を共にすることとなった。楽しく語らいながら朝日岳迄の岩肌と趣の変わった草原状の気持ち良い道を歩く。シャクナゲの木はまだ開花していない。蕾も少なそうだ。ツツジもまだ開いていない。でもハイマツとシャクナゲの生い茂る山上の草原、小鳥達の囀りで気分は快適だ。三本槍岳は名前と違ってどっしりと落ち着いた山である。遠くからは緩やかに見えた斜面は結構な坂である。頂上はまだかなあ、どこか
なあと息を切らす頃ようやく広々とした山頂に到着。
 ここも文句無しの360度の好展望である。しかし、ここは初めての山登り、福島県との県境だ。未知の世界…山の名前が分からない。広域地図を持ってこなかったのが残念だ。これから歩く大峠方面の稜線が眼前に見える。単独行氏はここから引き返し隠居倉から三斗小屋歩面をめざす予定であったみたいだが、稜線に心惹かれたのか行程を同じくすることとした。

 朝日岳までのゴツゴツした山容や多くのハイカーの喧噪とうってかわって後半は静かな草原や尾根歩き、たくさんの花々、ブナの新緑が楽しめた。三本槍岳から三斗小屋温泉、そして噴煙あげる茶臼岳のコースである。

 低木帯の中を緩やかに下るとデンと構えた須立山の前方にひっそりと沼が見えてきた。エメラルドグリーンの湖面がちょっと神秘的だ。ここから大峠まではイワカガミ、ミツバオウレン、ショウジョバカマ、サクラソウ、スミレ、イチリンソウその他の花が出迎えてくれる。ツツジもちょっと時期が早いものの、ここら辺りでは割と多くピンクの花が可憐だ。シャクナゲの花も一輪だけ見れた。月末頃には楽しめるかな?二人だけの静かな県境の山上漫歩。賑やかだった前半が嘘みたいだ。

 旧会津中街道の要衝であった大峠にはひっそりと数体の地蔵様が鎮座していた。右手の会津方面の道側にはスミレの花が咲き誇っていた。しばし心地よい風に吹かれながら休憩の後三斗小屋方面をめざす。背の高いササの道はぬかるんで歩きにくい。わずか残った残雪に足元注意。イチリンソウが沢山咲いており目を楽しませてくれる。やがて結構な水量の峠沢に到着。ちょっと口をつけてみる。甘い感じだ。顔を洗う。サッパリと気持ちよい。濡れた石に用心し軽快にポンポンポンと飛び越して渡る。雨の後などはちょっと大変だろう。ここら辺りからはブナの新緑が瑞々しく心洗われる気持ちの良いところだ。ここらで別の単独行氏と合い結局三人連れみたいな感じでこの後、峰の茶屋まで同行した。こうした出会いもまた楽しいものである。

 赤岩沢からは結構な登りとなり、ブナ、ミズナラ等の道を喘ぎながら登る。時々吹き付ける涼風に助けられ結構疲れたなあ、割とハードな行程だなあと話し合ってるうちに三斗小屋温泉に到着。大黒屋の前に流れる冷水を分けてもらう。今日は予約でいっぱいらしい。脇の方で昼食とする。ふと煙草屋の上を見上げると男性の裸身が……露天風呂みたいだ。気持ちいいだろうなあ。水着姿の女性も入っていたそうだ。私は気が付かなかった。残念…でもここまで水着を持ってきたんだろうか、それとも貸してくれるのだろうか。はたして本当に水着姿の女性が入っていたのかちょっと?である。でも、タオルなどもった軽装の女性が歩いているところを見ると、やはり居たんだなあと納得する。今度はゆっくりと泊まってみたいものだ。

 チラチラと露天風呂方向を眺めながら温泉宿を後にする。残念ながら水着姿の女性は見えなかったが、緩やかな樹林帯の道はツツジやダケカンバが目を楽しませてくれる。サンカヨウも咲いていた。この辺りからは人出も多くなり避難小屋に到着。眼前には峰の茶屋から茶臼岳がドーンと青空の中にそびえ立つ。この時には爽やかな青空となっていたのだ。やはりそびえ立つ山の背景は青空が一番だ。ここから剣が峰の斜面を登り峰の茶屋をめざす。樹林帯から一転してガレ場となる。滑らないように注意して登る。
 途中身障者をサポートして下ってくるグループと出会った。

 峰の茶屋に到着。朝の曇り空の下で眺めた光景と違い、更に険しそうな朝日岳、噴煙を上げる茶臼岳が壮快だ。ここで二人の単独行氏とまたどこかの山での再開を約束して別れ、ゴツゴツとした溶岩の道を茶臼岳をめざす。右手にはゴーゴー、シューシューと噴煙の音が不気味だ。山肌は黄色い硫黄の岩肌が映える。ペンキの目印が無かったら結構迷いそうなところだ。岩ツバメだろうか縦横に飛び回っている。お釜周遊コースを歩き、やがて山頂だと思う頃ガスが出てきたなと思っていたらすぐに展望が無くなってしまった。しばし特有の硫黄の臭いを楽しみガスに包まれた静寂を満喫した後下山開始だ。

 時折ガスが薄くなるものの見通しはまったく聞かない。ロープウエー山頂駅方面を磁石にセットし足元のペンキの印を見失わないように慎重に歩く。時々駅の方から最終便の時刻や、ガスで道を間違わないようにとのアナウンスで方向が間違っていないことに安心する。途中から視界は5mも無くなり不安になる。ペンキも見あたらなくなってきた。アナウンスも少なくなってきた。ザクザクした火山礫に人の足跡を見つけようと足元を注意して歩く。ガスで服が湿ってきた。寒い。カッパを着ようとしたがもうすぐだろうと我慢して歩く。髪の毛からはポトリポトリと水滴が滴ってきた。 アナウンスも無くなり少々不安になってきたが磁石を信じて歩いていると突然子供の声、目を凝らすと前方に山頂駅が忽然と現れた。「良かった、万歳」とほっとする。

 こうして火山、ゴツゴツした山容と高原状の尾根歩き、高山植物、新緑、眺望、そして最後にはガスにまかれる等、3拍子も4拍子も楽しめた那須連峰登山は幕を閉じた。

 帰路、殺生石の橋のところにある「鹿の湯」で今日の山行を思い出しながら、ゆったりと汗を流す。しかし、48度は熱かった。そうそう、ここで先ほどの単独行氏と再度出会い一緒に48度に挑戦したのも良い思い出である。