鎖場の連続 秩父 両神山
鋸歯をたてたような険峻な山容。似たような山容の妙義山縦走を昨年秋に果たし次はあの両神山と思っていたが、春になりようやくその機会がやってきた。
登るなら連続する鎖でスリルと上り下りの変化に富んだ八丁尾根コースしかない。もしかしたらヤシオツツジも咲いてるかなあと期待しての山行であった。残念ながらツツジは時期が早すぎたが、鋭い岩稜歩きと鎖場は文句無しの充実感を味わえた
【登山日】 1996年4月28日(日)晴
【山 名】 秩父 両神山(1,723m) 八丁尾根コース
【同行者】 単独
【行 程】 八丁峠登山口…八丁峠…行蔵峠…西岳…東岳…両神山頂
0855→ →0935 1003 1012 1100→1135-1300
1510← ←1444 1410 1358
1322 ←
【参考書】 奥秩父(奥多摩、奥武蔵)を歩く…山と渓谷社
【地 図】 両神山 1/25000図
昨年のゴールデンウイークは西上州のヤシオツツジに憑かれ、あちこちと登ってしまった。今年は尾瀬でもと思っていたが、NHKで放送された厳冬の尾瀬で今年は例年になく大雪だったとのことで、軟弱ものの私はさっぱり諦めて今年も西上州参りをしようと思い立った。しかし今年は寒かった性か新緑や花の開花が遅れているようである。でも開花に会わせて休めるほど私の会社は甘くはない。こんな不景気ですから、遊び回ってばかり居ると「どうぞ、どうぞ、いつでもお止めになって結構です」なんて言われたら大変である。花はなくとも山は楽しい。鎖があるさ。あえぎながら登ればストレス解消。健康にも良い。さあ、出発だ〜
約2時間かけて八丁峠トンネル手前の登山口に到着。R299の坂本あたりでは道路端の桜が一番良い時期だ。沢山の桜。爽やかな風に桜吹雪の洗礼を受ける。途中以前登った二子山の登山口には山頂をめざす登山者が数人見られた。この山も結構大変だったなあと思い出す。
やがて志賀坂トンネルの手前で左に折れ林道に乗り入れる。この道は二子山や両神の山容が望めて景色はよいが、うっかりしていると道路にごろごろしている落石にごっつんということになる。運が悪ければ切り立った崖に転落もあり得るだろう。人間の頭以上の大きさの石も結構ある。注意が必要だ。
登山口には数台の車が止まっている。案内板でコースを確認し登り始める。予定ではトンネルを過ぎて上落合橋の方からと思っていたが、帰路は林道歩きとなるが面倒なのでこちらから登ることとする。最初からかなりな急登と鎖の出迎えを受ける。外秩父縦走の疲れが残っていたのか、暑さの影響もあり、いきなりの大汗である。
山の木々の新緑はまだ早すぎるみたいだ。この分ではヤシオツツジもたぶん駄目であろう。あいにく春霞で展望も望めそうもない。ハシリドコロの花がようやく咲き始めていた。雑木林の中をジグザクに上り詰めると八丁峠の展望台だ。西の方には立入禁止の看板がある。別の標識には、志賀坂峠、赤岩に至る「未開発に付きガイド要す」とある。面白そうだ。でも無理はいけない。標識には従おう。ガイドがあれば登れるんであろう。いつか挑戦したいものだ。
一休みの後、いよいよ本日のメインコース「八丁尾根」越えだ。ガイドブックには急な鎖、急下降、鎖場連続、十分注意とある。緊張と期待が胸をよぎる。「慎重に無理をせず」と心に近い、早速鎖場の挑戦だ。木の根っこと鎖、岩につかまっての登りが続く。やがて行蔵峠だ。なんでここが峠なんだろうと不思議に思う。どう見ても何々岳といった感じだ。昔の人はここを通って旅をしていたのだろうか。眼前に異様な叶山が痛々しい。石灰岩(凝灰岩?)採掘で殆ど山の姿は無くなってしまっている。隣の二子山はまだ安泰だが、同じ様な岩質の山であり心配だ。
ここから西岳までは僅かだが、鎖の世話になる。細かい石ころも多く落石に注意が必要だ。この山は小鳥が多いのか又は春のせいか知らないが、たくさんの種類の鳴き声が爽やかだ。残念ながら何の鳥か聞き分けられないが(音は聞き分けても、名前の無知である。寂しいなあ)一つだけ特徴のある声が気になった。木をつつくような「コココココッ」と変わった声がする。なんだろう?
西岳で一休み。行く手には屹立する東岳が立ちはだかっている。数本の鎖で下り、そして登る。振り返れば「いやあ、あんな所下ってきたのかあ。凄いなあ」とびっくりの急峻さである。下っているときは急だなあと思うが、遠くから見ると本当に急な光景だ。しばし中腹で西岳から下っているパーティーを眺める。へっぴり腰で岩尾根にへばりついている人。すいすいといかにも身軽そうな人。きゃあきゃあと楽しそうな声がこだまする。
やがて東岳に到着。ベンチで若い夫婦が食事中であった。何とかのカレー味が美味しいかったが、最近セブン??の店頭から無くなった。等と話していた。東側をのぞき込むと垂直な切れ落ちた崖だ。吸い込まれそうである。凄いなあ。
紅葉の時期も素晴らしい景観を味会わせてくれるのであろう。ガイドブックによるとこれで難所は終わり。岩場から解放され樹林の山歩きとある。まだ木々は葉を付けておらず暑いくらいの木漏れ日の中を快適に進む。程なく両神山山頂が見えてきた。たくさんんの人が見える。一度下って数本の鎖で山頂手前のピークにつく。この登りではまだ雪がほんの少しあったが全く登りには問題ない。
僅か南に進み、混み合っている山頂に到着。銅製?の立派な展望盤で山の名前を確認するが生憎の春霞で遠望はきかない。富士山も記入されているが、双眼鏡で覗いても全く見えない。今日は展望を諦める。遠くの墨絵のような感じでこれもまた風流である。「おっとご無沙汰」って感じで仙人でも出てきそうな雰囲気だ。狭い山頂は長居も出来ず。ちょっと北に寄った岩の上に陣取り昼食だ。結構狭く、落ちないように気を付けての食事はスリル満点だ。
コーヒーを味わいながら帰路を考える。1389mのピークを経由し上落合橋に出て眼下に見える林道からトンネルを越え登山口に戻る予定であったが、あの長い林道歩きはイヤだなあとの気持ちが、林道を見るほどに強くなってきた。「よし、ピストンで再度鎖場経由で戻ろう」と決意する。一回の山行で2度おいしい鎖場体験が出来るのもまた格別である。しかし、ただ戻るだけでは面白くない。
そうだ、帰りは鎖のお世話にならないで帰ろうと目標を定める。ここの鎖場はかなり角度的には厳しいが、それに頼らなくても結構、木の根っこ、岩の出っ張りと手がかりは多くさほど困難とは思えない。
鎖を使わないで八丁尾根コースを歩く。これもまた楽しからずや。しかし、途中で2カ所ほど初志貫徹ならず。頑張ればたぶん大丈夫だったと思えるが、無理して怪我をしてもつまらないし……
で、花には出会えなかったが、ピストンの山行も楽しく終えることが出来た。これでまた、下界から両神山を見る旅に「ああ、あそこに登ったんだ。険しくとも楽しかったなあ」と思い出に浸ることが出来るだろう。
