セツブンソウを満喫,秩父・四阿屋山 1996年3月20日(水)晴れのち曇り
頂上からは独特の風貌を魅せる両神山の好展望と、セツブンソウ自生地では今を盛りと可憐なセツブンソウを楽しめた。しかし帰路の下山直後の転落事故発生を間近に見て緊張した山行でもあった。この季節、雪は全くなかった。
薬師の湯駐車場…鳥居山コース…送電塔…奥社…四阿屋山頂…奥社…山居広場…大堤
0950 1025-30 1048 1100-20 1135-1220 1245
…堂上セツブンソウ自生地…薬師の湯駐車場
1253-1315 1355
秩父方面の山行は気分的にアクセスに時間がかかりそうだ、また人も多そうだと思いこみなかなか足が向かなかったが、先日買った本に載っていたセツブンソウが楽しめる四阿屋山に行ってみることにした。意外と早く80分で両神温泉・薬師の湯に到着。帰りは温泉に入る予定なのでここに駐車する。
小鹿野方面にわずか戻り薬師堂の先にある両神神社の横の車道を登り道標から鳥居山コースをとる。さっそく白やピンクの梅の花が出迎えてくれる。春なんだなあと思う。天気も良し、楽しい山行になりそうだ。真新しい道標に導かれ杉や檜、雑木林の尾根歩きだ。北側の方は木々の間から村落や遠くの山が顔を覗かせる。上り下りの緩やかな尾根だ。程なく巨大な送電線鉄塔の下に到着。
数名が休んでいる。ここで奥多摩の方から来たというおじさんにおいつく。「いやあ若い人は早いねえ」といわれた。若いと言われたのは久しぶりである。後で知ったのだがこのおじさん73歳とのこと。どう見てもそう見えない。確かにこの人から見れば私はまだまだ若い。今日はこの人と後になり先になり山行をともにする。
鉄塔から先は雑木林の中、割と急な坂である。土がほとんどの道は滑りそうで結構しんどい。左手から上がってくる山居との分岐を過ぎ両神神社奥社に到着。この先で「急坂、直登禁止」の看板。ここから東に巻いて南側から登るようになっていたので急坂の方を眺めてたら、山頂から降りてきた人が、「そっち登れないことはないよ」…「よしっ」気合いを掛けて直登コースを登る。かなり急だ。東側は切れ落ちた崖のようだ。落ち葉で滑らないように気をつけ木の根っこを頼りに登る。
先日登った榛名相馬山の急坂よりは楽である。しかし子供や腕力のない人は登らない方が良さそうだ。距離は無いが、道ははっきりしないし滑る。
10分程で賑やかな山頂が見えてきた。下のベンチで休んでた人から「お疲れさん、こっちからもっと楽に登れるんですよ」と声をかけていただいた。と、突然その奥さんらしき人が「あれっ、あなたは??もしかして去年の夏、上高地のバス停であった人でしょう」との言葉。そう言えば昨年ヤマケイの登山教室で穂高に行った帰りバス停で槍が岳からの帰りという女性と出会ったことを思い出した。何だ、主人が居たのかとはおくびにも出さず、主人らしき人を差し置いて奇遇な再会に話が弾んだ。主人らしき人もニコニコと会話を楽しんでいた。
狭い山頂からは両神山が正面に迫っている。今年こそ両神山に登るぞと決意を胸にしばし眺める。あいにくの薄曇りで折角の展望も霞がちだ。狭い山頂では沢山の人が交代に記念撮影だ。立派な山名方位盤があるがゆっくり眺めるのも憚られる。早々に下山とする。静かな桐生近辺の山が恋しくなる。下山は直登コースは無理であり通常のコースを辿る。鎖場があるが階段状になっており特に問題はない。
僅かで大堤へ抜けるツツジコースとの分岐となるが上級者コースとあり山居コースをとる。こちらも階段状の鎖場の下りである。登ってくる人も多く離合するときは注意が必要だ。
程なく急登禁止との分岐の奥社に到着。おじさんと一緒に休んでいると突然ど〜んと二度ほど鈍い音と「うわっ、きゃあっ」と大きな声、すぐ後に「助けて〜、人が落ちた。男の人いませんか〜誰か〜」との声。急いで駆けつける。そこには50歳位の男性が意識不明で血を流し横たわっている。5m程転落したとのこと。連れらしい女性達が動転して助けを求めている。医療の心得のある人も居ないようだ。電話や無線も無い。いつも持っている無線を今日に限って低山だからと車に残してきたのが悔やまれる。一刻を争う。その場は女性達にまかせて救助を要請に走って下山とする。途中、道々で「無線機、電話持ってる人居ませんか?」と呼びかけるが見あたらない。
早くしなければ…と急いで降りる。ようやく山居の「とまり木」という休憩所で電話を借り119番だ。近くにこの山の管理人が居るというので連絡に走る。ここまでは車で入れるらしく、下の方の一般車通行止めのガードを開けて貰い救急車を待つ。20分ほど経っただろうか、ようやく到着。状況を説明する。この時事故現場を見て降りてきた人から「意識は戻ったようだが頭が割れている、血は止まったようだ。歩くのは無理」との情報が寄せられた。隊員からヘリの出動が必要かと聞かれるが、私には判断できない、しかし「意識不明だったし頭割れてる、歩けない、背負っての下山は厳しい、一刻も早く手当必要だろうし一般的には必要では?」と答える。
ただ、着陸する場所は難しいとの事であった。救急隊員が用具を持って登山開始だ。僅かしてヘリの出動が決定したと教えて貰う。なお、後で降りてきた人によると下山で通りかかった人が無線機を持っていてこちらからも連絡が時を同じくしてあったそうだ。
この事故で急いで降りてきたために途中のフクジュソウ園地を見ることは出来なかった。駆け下りるときに黄色い色が横目に入ったがたぶん綺麗に咲いていたんだろう。しかしもう戻ってみる元気はない。降りてきた奥多摩のおじさんと大堤をめざす。途中ツツジコースからの道と合流し程なく道路に出る。道路歩きも僅かで自生地に到着。途中ヘリが爆音を響かせて飛んでいった。救助のヘリだろう。無事だったろうかと思いを馳せる。
セツブンソウは満開だ。日本一の自生地とのことで人気も高いのだろう。沢山の人が楽しんでいる。可憐な花だ。写真を撮る。先ほどの転落事故で無線機が無く悔しい思いをしたが、荷物から外したのは花の写真を撮るためにレンズを数本多くしたからであった。せめて立派な作品でもとシャッターを切る。暫く園内を堪能し薬師の湯を目指す。どこかで工事でもやっているのかダンプの通行が異常に多い。道もそれほど無く怖いくらいだ。40分程で駐車場に到着。ここでおじさんとまたどこかの山での再会を約し分かれた。
温泉は3時間まで600円、筋肉痛、神経痛その他諸々に効果あるそうだ。鉄筋で立派な建物、40人も入れる立派な温泉だ。この温泉は肌がツルツルして美しくなると女性に人気らしい。湯上がりに上気した顔で休憩している女性は皆綺麗にみえた。今日はあわただしい山行であったが泡の吹き出す温泉は心も体も癒してくれた。