至仏山から燧ヶ岳は遠かった
                 1997年8月9日(土)〜10日(日)両日とも晴れ

 至仏山頂から山ノ鼻ルートが再開されたのを機に尾瀬ヶ原、燧ヶ岳を一気に征してみようと計画した。天候に恵まれ素晴らしい眺望と晩夏を彩る沢山の花々、キャンプ場での素晴らしい星空に満足の二日間であった。しかし疲れた…  

8/9  鳩待峠…小至仏山…至仏山…山ノ鼻…燧ヶ岳…(長英新道)…尾瀬沼 キャンプ場(泊)
     0500    0645   0715-45 0900-10 1440-1515         1810
8/10 キャンプ場…ビジターセンター…三平下…三平峠…一ノ瀬…大清水
     0710    0713-0730      0745-0800  0815   0855   0923


 昨年、大清水から燧ヶ岳を日帰りで往復したときは、ナデッ窪のあまり展望もない急な登りや長英新道のダラダラした長い道のりに「あまり楽しい山じゃあないなあ、登るより尾瀬沼から眺める山かな」と思った次第である。それも日帰り往復で疲れたから余計そう思ったみたいである。で、今回はゆっくりとテント泊で楽しもうかと再開されたコースを組み込んで縦走とした。

 伊勢崎を深夜に出発、戸倉の駐車場で仮眠し乗合タクシーで鳩待峠着。天気は晴れ、暑くなりそうだ。まだ5時前なのに沢山の観光客で賑わっている。さっそく登山届けに記帳し出発。登山口に設置されたカウンターにカウントされブナ、ミズナラの樹林帯を緩やかに歩く。しかしザックは約18Kgと重く肩に食い込む。大きな岩のところからは尾瀬ヶ原や燧ヶ岳が眼下に広がる。オヤマ沢田代の湿原ではキンコウカが花盛り。緩やかな風が心地よい。そして笠ケ岳への分岐を過ぎ森林限界となり岩も多くなり沢山の花を眺めながら小至仏山に到着。「やっと至仏山の頂上についた」と言う声がする。「ここ小至仏ですよ。至仏山はまだ先」とおばさんの声。そう、まだまだ先があるのです。

ここらあたりから登山靴で磨かれた滑りやすい岩肌に注意し何回か上り下りを繰り返し山頂に到着。登るときにはばっちり見えてた山頂だったが、生憎のガスのため素晴らしい眺望は無し。しかし時々切れ間から覗く越後三山や谷川方面の遠望にあちこちから歓声が上がる。山の鼻から登ってきた人達には「どれくらいかかりました?道はどうですか?」と再開されたコースに皆の話題はつきない。越後三山の勇姿よもう一度…と眺めていると、突然ブロッケン現象の出現だ。手を大きく振り「あっ、でた。あれっ、もう消えた。不思議ねえ」等と賑やかだ。

燧ケ岳
 さあ、いよいよ山ノ鼻コースだ。自然保護を名目に閉鎖されて約八年間、登山道の整備や植生の回復により、ようやく今夏再開された道だ。頂上を少し降りたところで雲が切れ山頂は青空に包まれている。このコースはまさに尾瀬ヶ原や燧ヶ岳がこれでもか、これでもかと言った感じでその素晴らしさを見せてくれる。また、花も多いが、しかし見とれてばかりはいられない。滑りやすい木道や、足をくじきそうになるごろごろした岩、滑りそうな大きな岩。それに結構な下りである。ここを登りに使うのはちょっとしんどそうだ。終いには足ががくがくしてきた。果たして今日の長丁場、耐えれるだろうかと不安になる。そして植物見本園の平地になり賑やかな山ノ鼻に到着

 少し休憩の後尾瀬ヶ原湿原漫歩、盛夏を過ぎたためか人は思ったほど多くない。花も最盛期を過ぎたのであろうか、ニッコウキスゲは見ることが出来なかった。キンコウカ、サワギキョウはたくさん咲いていた。今日の予定は調子によっては下田代十字路でキャンプと思っていたが、まだ時間は11時と早い、そびえる燧ヶ岳が登行欲をそそる。雷は来そうもない。もしかしたら明日は天気が崩れるかもしれない。よし、登るぞ!!と決める。弥志郎小屋の脇の冷たい清水で喉を潤し、さあ、頑張るぞっと気合いを入れ出発(気温26度)。ブナの樹林帯で最初は日陰で良いなあと思っていたが、蒸し暑い、風が全くないのだ。緩やかな樹林帯が終わると岩の多い急登。展望もなくただひたすら登る。休憩の回数が増えてきた。水筒の水も減っていく。ちょっと登っては休憩の繰り返し、この分では結構時間がかかりそうだなあ……と、ちょっと後悔する。

半分くらい歩いたかなあと思う頃振り返れば尾瀬ヶ原と至仏山が見えた。よし、頑張ろう、山頂からは素晴らしい眺望が待っているぞと気力を奮い立たせる。しかしその気力に水をさすように、上から降りてくる人達から一様に「これからですかあ、まだまだ苦しい登りが続きますよ。頑張ってね」「いやあ、下りもしんどいけど登りもつらそうですねえ」…やはり燧ヶ岳はしんどい、しかしその後若々しい三人の女性に「頑張ってね、もう少しですよ。1時間も無いんじゃない。山頂は涼しい風と素晴らしい景色が待ってますよ」との励ましに俄然元気が出てきた。僅かで森林限界も終わり頂上が見えてきた。岩やガレの多い道を頑張って歩く。俎クラには人影が見える。

そしてやっとの事で頂上に到着。時間が遅いためか360度の展望を独り占めである。午前中に登った至仏山や花に見とれて歩いた尾瀬ヶ原が今日は特別感傷的に見える。「いやあ、あそこから歩いてきたんだ。うん、頑張った」と自分をほめる。眼下に見える尾瀬沼も輝いて見える。その後方には女峰山や男体山など日光の山々だ。武尊から谷川岳から巻機山、そして越後三山もばっちりだ。

 しかし今日の宿泊地の尾瀬沼のほとりは、かなり遠くに見える。気温は19度、風は弱い。いつまでも眺めていたい風景であるが既に15時。記念撮影を済まし俎クラ向けて下山する。僅かで到着。ここは風が強かった。岩の上に立ってると吹き飛ばされそうである。標柱にしがみつきしばし休憩、寒くなったのですぐに下山開始。下山はナデッ窪経由も考えたが、あの岩の多い急坂は疲れた足にはしんどそうだと距離はあるが歩きやすい長英新道とした。しかし、思惑とは裏腹に前日の雨のせいか、粘土状の道が滑る滑る。ところどころぐちゃぐちゃである。歩けども歩けども尾瀬沼は近づかない。坂も終わり平坦な道になっても樹林帯の中はとにかくぬかるんだところが多い。最初は避けて歩いていたが最後の方は疲れもたまったせいか、靴の汚れも気にならなくなってきた。

そしてようやく、本当にようやくと言った感じで沼を周回する木道に到着、ほっとする。沼畔には紫色したサワギキョウの群落が見事だ。そしてそびえ立つ燧ヶ岳の勇姿に「ああ、ようやく着いた」と再び感激する。18時過ぎオオシラビソに囲まれたキャンプ場に到着、既に沢山のテントだ。早速受付を済ませ(450円)設営しビールで今日の山行を記念し一人乾杯!!。しかし疲れがたまるとビールってあまり飲めなくなるようだ。ロング缶二本は無理だった。テント場は沼からちょっと奥に入っているため夕日に沈む燧ヶ岳の勇姿を見るのをすっかり忘れていた。20時、外に出ると空には沢山の星が輝いている。「いやあ素晴らしいなあ、こんな星空って久しぶりだなあ」と感慨に耽る。そして就寝……

 朝、小鳥の声で目覚める。今日の行程は大清水までとラクチンコースである。ゆっくりと紅茶を嗜み朝食。そしてテントの撤収。7時過ぎに出発しビジターセンターで昨日見た花の確認をする。三平下で燧と尾瀬沼に別れを告げ三平峠までは僅かの登り、そして後は下るのみ。ナナカマドは少し色づいてるのも見られた。沢の音に見送られ樹林帯を快調に下り一ノ瀬に到着。昨年歩いたときの時間から見て予定より一本早いバスに間に合いそうだ。よし、急げや急げと林道を大清水迄、小走りとなる。そしてバス出発2分前、無事間に合った。汗だくだくであったが乗客も少なくて汗くさいのを気にする事もなく戸倉に到着。駐車料金2000円/二日を支払い今回の山行は終了した。

今回見た花(名前は正確じゃないかも…)
 ウメバチソウ、アキノキリンソウ、ヤナギラン、ワレモコウ、サワギキョウ、トリカブト、オゼリンドウ、オゼミズキ、ネジバナ、ハンゴンソウ、ヒメシャジン、コオニユリ、マルバダケブキ、オタカラコウ、ハリブキ(実)、タカネナデシコ、ツリガネニンジン、クガイソウ、イブキジャコウソウ、モウセンゴケ、キンコウカ、チングルマ(実)、タケシマラン(実)、ヒツジグサ
 あれっ、オゼソウ見なかったような…