尾瀬 素晴らしい紅葉に感激!!          
    1996年10月10日(木)晴れ


 尾瀬、何と心地よい響きであろう。都会での疲れた体をいやしてくれる素晴らしい自然、尾瀬、尾瀬、尾瀬…
最近高崎線の電車の中で、又は社内で、テレビで、ラジオで、新聞で尾瀬と言う言葉を聞かない日は無いくらいであった。 有名な尾瀬、遥かな尾瀬、私はまだ最盛期と言われる尾瀬に行った事がない。紅葉シーズンは人が多いよ、歩くだけでも大変だよ。疲れた体などいやしてくれないよ。東京駅並みの混雑だから……との行かない人、行けない人のひがみを押し切って、有名な尾瀬(幸い私の所からは遥かな尾瀬でなく割と近い)に紅葉真っ盛りの体育の日に行って来ました。
 結果は、帰路のちょっとした交通渋滞はあったものの、絵にも描けない素晴らしい紅葉や黄葉、爽やかな風、素晴らしい天候、雄大に構える燧ガ岳や至仏山の見事な景観。それはそれは満足した一日でありました。日頃運動不足の妻や息子も良く歩きました。疲れたけど良い思い出となった。

鳩待峠…アヤメ平…富士見小屋…八木沢道…下田代十字路……牛首…山ノ鼻……鳩待峠
0540    0830   0855-0920  1120 (途中で昼食)1330-40 1515  1550-160   1700 


  自宅を3時20分出発、深夜の17号線をひた走り戸倉駐車場に5時5分到着。そこから乗り合いタクシーで鳩待峠に向かう。まだ薄暗く黄葉の素晴らしさはもう少しお預けだ。運転手さんによれば、「今日は霜が降りた。寒いねえ。でも天気はよい
し黄葉も真っ盛り、お客さん達は良い日に来たねえ。でも今日は混むよ〜。で鳩待峠に到着。こんな朝早くから凄い人出だ。時間が早いので朝食は後にして出発する。売店裏のトイレは長蛇の列、列……あれじゃあ、歩き始めるまでに疲れてしまうんでは無かろうか。後ろの方の人は1時間以上待つんじゃないだろうか、並んでいる人に見送られ売店の裏から鳩待ち通りを歩き始める。大多数は山ノ鼻に向かったんだろう。こっちは静かなものである。黄葉はちょっと遅いのかなあ。でも綺麗だ。

 最初のちょっとした登りでたっくんが「えっ、今日は山登りじゃないって言ったじゃん」と不満を述べる。ハイキングと言ったので数年前の晩秋に歩いた木道歩きのみ記憶に残っていたらしい。ちょっとぐずりながら歩く。でも、僅かで後はちょっとした起伏の気持ちよい樹林帯。樹間より朝日に輝く至仏山が見え隠れする。朝の柔らかく暖かい光と青空、白い雲で素晴らしい景観だ。そして視界が広がり、開放的な横田代に到着。ここで草紅葉と至仏山を眺めながら朝食とする。おにぎりだけだが、景色の素晴らしさとちょっと歩いた後なので美味しさも最高だ。ぐずっていたたっくんもここから俄然元気がでる。木道に着いた霜が面白いようだ。大人はへっぴり腰で滑らないように歩いているが、子供は機敏なためか滑るのを喜んでいる。見ている方はハラハラだ。ここらは緩やかな登りでところどころ木道の桟が無いところがあり、大人は滑って登れないためやむなく木道から降りて歩かざるを得ない。幸い横は湿原でないのでまあ、しょうがないだろう。ここからアヤメ平まで妻やタックンは数回転んだ。他の人も何人か転んだ。私は転ばなかった。今日は40うん歳の誕生日である。まだまだ運動神経は劣っていないようだ。

 今日の最高点「中原山1968m」に到着。もう少しで2000mだ、タックンはそばにある倒れた気に登って飛び上がり高度を稼ぐが2000m迄はまだまだだ。そして広〜いアヤメ平に到着。燧が岳がバッチリだ。しかし、以前踏み荒らされた湿原を回復させるべく施されたむしろが痛々しい。雲上の楽園気分がちょっと寂しい。今は木道で歩くと
ころも決まっているが以前は無秩序であったんであろう。「ちょっとあっちからの展望が良さそうだね。あの花、もう少し近寄ってみたいね」なんて木道から外れ湿原にはいるようなことはやめましょうね。

 ここから富士見小屋までは紅葉を楽しみながらの気持ち良い下りだ。写真を撮っていた単独行の人と話ながら下っていたら、「ズルッ、デ〜ン」思わず滑ってしまい、尻餅をついた。ザックで後ろに倒れることは防げたがその響きは脳まできた。幸いどこも怪我無く無事で一安心。先ほど運動神経もまだまだなんて安心したのが悔やまれる。単独行の人「いやあ、痛かったでしょう。大丈夫?。でもカメラが無事で良かったですね」だって。木道が2本有り、私は日陰で霜のあるほう、その人は日の当たる方で霜の無い方を歩いて行いたのである。運命の分かれ道ってこんなものかなと感じた次第である。

 単独行の人は長沢道をめざす為この先で分かれ、程なく富士見小屋に到着。富士見下から歩いて来たらしい人達が小屋の前で数人休んでいた。中に入って休めば休憩料200円だそうだ。ちょっと先の分岐で「橋が壊れているため立入禁止」の立て看板。「えっ、ここまで来てそれはないよ」妻と娘の不安そうな、そして冷たい視線に向かって「仕方ないね。危ないんじゃ、さっきの竜宮への分岐まで引き返そう…」ちょっとした登りだが、戻るのはしんどそうだ。ちょっと戻って一応確認してみようと小屋に入りおじさんに聞いてみたら「行けないことはないよ。一応立入禁止になってるけど。木道で滑ったりなんかより安全だよ。紅葉も素晴らしいですよ。まあ、立入禁止になってるから勧めることは出来ないけど、何人も下って行ってるよ」だって…親切そうな人であり信用して下ることにする。お薦め?の通り素晴らしいブナ、ナラ、カエデ、その他の黄葉が待ち受けていた。

 あの憎たらしい木道もない。静かな山道で赤や黄色、茶色の落ち葉を踏みしめて歩く道は心地よい。出会う人も居ない。思いっきり家族団らんを楽しむ。樹間からは燧ガ岳が頂上を垣間見せる。双眼鏡で覗くと山頂には沢山の人が登っているように見える。今日は展望良いだろうなあ、以前私が登ったときはあいにくの天気であり、展望は宿題に残していた。ふと時計を見ると予定時間を大幅に超過している。でもいいや、この景色を慌てて歩くのは如何にも勿体ない。

 やがて沢の音が大きくなり、最初の橋(八木沢橋?)に到着。ここは無事通過、ちょっと先に一人の男性。ここは今日最高の景色と思われたところである。そこで絵にも描けない美しさを絵に描いていた。思わずのぞき込む。「う〜ん」絵心のない私には善し悪しは評価できない。でも、上手い下手じゃないですよね。書いてる人はうっとりと景色に酔いしれて筆が独りでに動いているようだ。もしかしたら有名な人かもしれない……
 その先の橋は壊れていた。途中から沢の中に落ちている。わたるのは無理である。ここが立入禁止の原因であろうか?少し下流に下りちょっと水に沈んでいる石伝いに「トントントン」と3m程をわたる。妻はちょっとビビッている。思わず手をさしのべる。最近じっと手を握ったことも無いが、この気持ちよい自然の中では自然に手が伸びた。不思議なものである。しかし、増水してるときなどは渡れるか心配である。雨の後などは通らない方が良さそうだ。そしてもう少し歩いていたらまた、橋があった。ここは結構湾曲した骨が2本、途中の板はない。飛び石づたいに渡れそうもない。用心して渡る。先ほどの転倒で運動神経に不安が生じた私は慎重である。たっくんはトントントンと快適だ。妻はなかなか第一歩がでない。ザックを先に渡し、また自然に手を取る。落ちるときは夫婦一体だ。しかし無事通過。ああ、よかった。

 ここからも素晴らしい黄葉だ。見晴らしで昼食を予定していたが混んでるかも知れないと黄葉に囲まれて食事をとることとした。谷川岳縦走時の練習をかねて今日はコッヘルでの炊飯を行う。焦げの臭いはしたものの、マズマズの出来に満足。水加減、火加減のこつが少し分かってきたようだ。そしてインスタント味噌汁(これが結構旨い。妻の作る味噌汁より旨いかも…大きな声では言えませんが)、最後は暖かいコーヒーだ。しかし、食事中の私達を見て「あれっ、ここで火を使ったら怒られるかなあ」だって……もしかしたらそうかも知れない。ここは国立公園内である。落ちている石を動かしたり、葉っぱを拾うことも禁じられているという事を聞いたことがある。
 もしかしたらコンロといえども火を使うのも駄目なことは十分考えられる。思わず反省したが、でも後の祭り。もうできあがっている。反省は反省として心に留め食事とする。でも美味しかったなあ(しかし、本当に火を使ったらいけないんであろうか?後の見晴らしの休憩場やキャンプ場ではコンロを使ってる人が居たが、特に区別した区画もなさそうだし……でも、山の中では火災が心配だし、休憩場とはちょっと状況が違う。やはり駄目なんかなあ。良いとか悪いとかの問題でなく常識として駄目なんだよという事なんだろうか?)

 食事中の出来事(その二)近くでゴソゴソ、ピキッ、ざわざわ、バリバリっとちょっと変わった音がする。たっくんが「熊じゃない。怖いよ〜」妻「ちょっと何か居るみたい。臭いにつられて熊かなんか来たんじゃない?」私「大丈夫、こんな人の多いところに熊が出てくる分けないじゃん(でも、ここは人通りは少ない。言っててちょっと不安は合ったが…)。風で葉っぱが落ちたり、枝の擦れ合う音だろう。第一尾瀬で熊が出たなんて聞いたこともない(本当はどうか知らないが)」と安心させる。見上げれば舞い落ちる葉っぱが綺麗だ。しかし、良く聞いてみるとちょっと音が違いそうだ。タックンはもうへっぴり腰で「怖いよ〜はやく行こうよ」等と言いながらコッヘルのご飯を持って逃げる格好をしている。少々不安になるが、ここは信頼できる父親像を発揮させ言葉巧みに安心させる。「3人も居たら熊だって出てこないし、たっくんみたいに騒いでたら熊も怖がって出てこないよ」との言葉でどうにか食事は終えることが出来た。一時間ほど休憩したものの後かたづけの早かったのは言うまでもない。

 食事中の出来事(その三)通りかかった外国人の男女が数人、つたない日本語で「コンニチハ〜」と声をかけてくれる。私たちは上手な日本語で「こんにちは」と声を返す。タックンいわく「凄いねえ。日本語知ってるよ」と感心してる。「こらこらそれならお父さんだって凄いだろう、ハローって英語位知ってるんだから、それにグッドモーニングも知ってるし…」と妙な意地を張ってしまった。

 そして僅かで見晴らし到着。数張りのテントやベンチでくつろぐ人達がいる。今度は山小屋でゆっくり泊まって尾瀬を楽しみたいなあ等と言いながら尾瀬ヶ原の散策をもとめて先を急ぐ。尾瀬の最盛期である。木道の大混雑も話の種に経験したかったが、時間帯が遅いのか、または逆コースなのかスムーズに歩くことが出来た。前半の
樹林帯の歩きや黄葉とはまた違った雰囲気を楽しむことが出来た。ちょっと遅いのかなあと思える湿原の草紅葉と、ささやかに咲いているリンドウ、どこまでも透き通った池糖に浮かぶ葉っぱ(何て言う名前だったかなあ)やゲンゴロウ?、そして気持ちよく流れる沢を泳ぐイワナやサンショウウオ?そして圧巻なのは見る場所によってシラカバや池糖、木道等と前景を変える燧ガ岳と至仏山、その他の山々に心は最高の気分。いつまでもくつろいでいたい光景である。芸術の心がわき出てきておもわずシャッターを切る回数が増えてきた。気がつけばフィルム3本は撮っていた。はたしてこの中から何枚気に入ったものがあるだろうか。しかし、この素晴らしい光景は私たち3人の心にいつまでも深く刻み込まれているだろう。

 山ノ鼻方面から歩いてくる集団に何組か出会う。この時間からすれば、見晴らしあたりで泊まる人達であろう。夕焼けも綺麗だろうなあ、と思いながら山ノ鼻に到着。ここら辺りでみんなに疲れが出てきたようだ。ここから、鳩待峠迄の登りは素晴らしい紅葉であったが、もう十分満足しており、ただひたすらにゴールをめざす。至仏山からの稜線がゴールが近いことを教えてくれる。「たっくん、今日は頑張ったねえ。着いたら褒美のアイスクリームだね」この一言で足が痛いと言っていたたっくんに元気が甦る。そして到着。もう遅いのか人もまばらである。早速妻が売店にアイスクリームを買いに走る。しかし…売り切れとのタックンには無情の言葉。落胆する暇もなく、バスの最終便が出ますよとのアナウンスに促され最終列に並ぶ。 いつもは4時で終わりとの事であるが、人出が多く今日は遅くまで運用しているとのことであった。私たちが乗ったのは二組5人の貸し切りで本当の最終便であった。すぐ前を走るバスは補助席も使った満員である。思わずラッキー。隣の席では疲れたのかタックンがコックリさんになっていた。

 5時40分思い出を胸に戸倉を出発帰路を急ぐ。途中コンビニでアイスクリーム買って貰ったタックン、眠いのよりアイスクリームのほうが良いみたいだ。途中混雑に巻き込まれ沼田到着までかなり時間を要したが8時5分に帰宅できた。11日からは谷川岳馬蹄型縦走を予定していたが延期したのは言うまでもない。心地よい疲れで爆睡……

 これから尾瀬は急速に冬支度を迎えることだろう。紅葉の見頃も残り少ないと思われる。真っ盛りの黄葉を予想を覆す静かな雰囲気で歩けたのは最高であった。誕生日のプレゼントとしては申し分ない尾瀬の感動をいつまでも忘れることはないであろう