燧ガ岳、ナデッ窪からの急登はしんどかった    
   1996年8月14日(水) 晴れ


 先日、Yさん達と至仏山に登ったとき尾瀬ヶ原の向こうにどっしりと構えた燧ガ岳が気になっていた。また、その時「えっ尾瀬沼行ったこと無いの〜」と言われたような気がする。夏休みも後二日、尾瀬沼に映る雄姿を求めて行って来ました。

大清水…一ノ瀬…三平峠…沼尻…ナデッ窪…柴安グラ…長英新道…長蔵小屋…三平峠…大清水
0520        0700-10 0830-42      1120-1230        1435-1505        1705


 日帰りではちょっときつい行程になりそうだと早朝3時前に自宅を出発。国道17号線から沼田経由で120号線に入る。深夜の国道は大型車がゴーゴーと猛スピードで走っており、ちょっと恐ろしいかったが無事5時前に大清水駐車場に到着。平日の為か駐車場はかなり空いていた。コンビニで仕入れたおにぎりで腹ごしらえして出発。

 一ノ瀬休憩所迄は、鳥の声や道ばたの紫の花に元気づけられ、ただひたすら林道歩きだ。これより少し先でいよいよ山道となる。入り口には「靴底についた雑草の種子を持ち込まないでね」と言った趣旨の看板があった。道に敷設された泥落としで靴底をゴシゴシとやる。でも、この靴底に付いた泥は先日の至仏山山行のものである。これより沢の水音に耳を傾け、ブナ等の樹林を眺めつつ途中から木道の道をただひたすら登る。急ではなく歩きやすいがなかなか足が進まない。寝不足の性であろうか。汗が噴き出す。三平峠で一休みし、これから先は三平下まで快適な下りだ。

 売店で新井幸人氏の「尾瀬 四季と花」を購入。尾瀬の素晴らしい四季や花々が美しい写真集だ。これで尾瀬通になれるかなあ。湖畔から眺める燧ガ岳がどっしりと構えている。期待の尾瀬沼に映るシルエットはさざ波のため見れなかったが素晴らしい雄姿にしばし見とれる。周遊道路は人通りも少なく鳥の声、押し寄せるさざ波が心地よい。綺麗なカケスも姿を見せる。途中の湿原では色とりどりの花が咲いている。そして沼尻休憩所だ。沢山のハイカーがくつろいでいる。めざす燧ガ岳がドーンと大きい。

 沼尻平のお花畑に別れを告げ、ナデッ窪を登る。最初は樹林の中、全く展望は無い。沢状で岩のゴロゴロした道は急登で結構歩きづらい。やがて時々眼下には尾瀬沼が見えてくると今までのつらい登りも癒される。樹林帯も終わりに近づき、長英新道との合流部では前方に俎グラが望め、もう一息だと元気を奮い起こす。左手には雪渓が僅か残っている。いやあ、つらい登りであった。遂にここまでやってきたぞ万歳。しかしこのコースは登りに使うべきじゃあ無いなあと思った。ここからハイマツ帯の中、小学生に追い越されながらも岩の急登をようやくクリアーし三角点のある俎グラに到着。山頂は岩ばかりで沢山の人だ。登りではあまり人に出会わなかったが、色々なコースがあり、たぶんそちらから登ってきたのであろう。休憩の場所を探すのも一苦労だ。眺望はよいが、時々ガスで視界が遮られる。眼下に見える尾瀬沼を眺め、早々に最高点の柴安グラをめざす。

 ほんの僅かで到着。まずはビールで乾杯だ。そしてじっくりと眺望を楽しむ。眼前には至仏山と尾瀬ヶ原が絶妙のコントラストで輝いている。平ガ岳、会津駒、大真名子や日光白根などの日光連山、皇海山、上州武尊と素晴らしい眺望だ。おう、あれは霧の旅人さんが先日行った鬼怒沼湿原方面だな。するとあれが鬼怒沼山だな。明日の予定は今日の下山状況により、日光連山縦走か鬼怒沼方面と考えていたので見つめる思いも真剣だ。ガスッてるものの、台風の影響か雲の動きも早く青空、ガス、白い雲と変化が面白い。尾瀬沼の湖面もそのたびに色が変わる。こちらの方が人気がないのか山頂が広いためか、俎グラ程の混みようにならずくつろげる。
 見晴らし新道方面からやってきた人が、私の飲んでいるビールを見て「やっぱり持ってくるべきだった。残念。美味しそうですねえ」と悔しがる。私は「ああ、美味しかった」とググッと飲み干す。ああ、満足!!奥さんらしき人が「お父さん、下山したら沢山飲めるからいいじゃない」と言って慰めているが、お父さん諦めきれないらしく「ここで飲むからいいんだよね。今度は絶対持って来るぞ」だって……

 帰路の大清水迄の距離を考えるとあまりユックリもしておれない。(でも1時間以上も休んでしまったが…)俎グラに折り返し、下りは長英新道とする。こちらは岩も無くそれほど急でもない。歩きやすい樹林帯の中を快適に下る。しかし結構な距離だ。ちょっとくたびれたなあと思う頃、ニッコウキスゲの群落する浅湖湿原だ。燧ガ岳を背景に咲き誇っている。思い出の記念撮影をパチリ。今日は新調したカメラである。さて写り具合はどうかなあ。

 途中、東岸のビジターセンターに立ち寄る。尾瀬の生い立ちや見られる花や鳥達が紹介されている。山と渓谷や岳人、その他の書籍も沢山あり時間があればゆっくりしたいところだ。長蔵小屋や三平下の尾瀬沼山荘では宿泊する人達がくつろいでいる。今度は泊まりで来たいなあと思いながら先を急ぐ。途中、岩清水と言われる水場で喉を潤す。冷たくて美味しい。時間は16時となっているが、この時間でもまだ登ってくる人がいる。それもかなり軽装の人が目立つ。大多数の人は多分泊まりであろうが、せっかくならもう少し早く来ればいいのになあと他人事ながら気に掛かる。さあ、あと少しだ。「歩こっ、歩こっ、私はあ、げ〜んきいっ…」と、子供が幼稚園の時運動会で踊っていた歌を口ずさみながら、気力を振り絞りようやっと駐車場に到着する。いやあ、休憩を入れて約12時間、歩行約44,000歩だ。頑張ったなあ。ひとり静かに満足感をかみしめる。

 燧ガ岳は高山植物は多くなかったし、登りは辛かった。良く本で見るあの光景の山に登れたん百合だ。至仏山や尾瀬ヶ原の眺望も良かったなあ。眺望もまずまずだ。しかし、それにも増してニッコウキスゲや尾瀬沼を前景とする山容はやはり素晴らしかった。燧ガ岳は遠くから眺める山だなと思った次第である。

 最後に見かけた主な花は「キンコウカ、コバギボウシ、ワタスゲ、ニッコウキスゲ、ナガバノモウセンゴケ、トウヤクリンドウ、マルバダケブキ、オタカラソウ、ハンゴンソウ、ギンリョウソウ、クルマユリ、アヤメかカキツバタ、サンカヨウの実、チングルマの実」と花期はちょっと遅かったものもあるが、その他沢山の花々(名前は?)に会えて幸せな一日であった。この時間なら日光まで行けそうだな。明日は女峰山から大真名子、子真名子山縦走だと志津林道をめざす。途中真っ暗闇の中から飛び出して来た鹿にびっくり、志津乗越に到着。ちょっと雲行きが悪いが、ビール片手に楽しかった山行を想い出しているうちに深い眠りに入ってしまった。