岩峰のアカヤシオ、好展望の四つ又山、鹿岳縦

1995年5月2日(火)  曇り後晴れ


一人の登山者にも出会わず、岩峰のスリルと好展望、咲き誇るアカヤシオで春の一日、静かな山歩きを楽しむことができました。

鹿岳の勇姿
 小沢橋…大天狗峠…四つ又山…マメガタ峠…鹿岳南峰…鹿岳本峰…コル…下高原…小沢橋 
 09:45   11:02   11:45-12:25  13:00   14:20-15:30  16:00  16:30  17:10   18:00


 先日の大津でアカヤシオの花を満喫したものの、あの綺麗さをもう一度見たいと思い、天候に不安はありましたが単独行を決意した。ところが、朝になってたっくんが「いきた〜い、アカヤシオ見た〜い」との嬉しいことを言ってくれた。でも学校が……まあいいか、よし今日はお父さんが体育の先生代行で課外授業を受け持ってやるかと一人勝手に解釈し連れていくことにした。ただ、縦走の計画でしたので疲れたら四つ又山だけに変更も想定し8時イザ出発となりました。
天気の良い日には下仁田インターから鹿岳の勇姿が望めるのですが、あいにくの天気で見えません。これでは、山頂からの展望は無理かとちょっと不安でしたが、天候は午後から回復との天気予報を信じ、小沢橋近くの道路端に駐車しいよいよ登山開始です。(駐車禁止ではないですが、交通量も多くちょっと心配です)

橋を渡り10分程集落のコンクリート道を登り(急坂で早くも息切れ、先が心配)やっと四つ又山の登山口だ。おばあさんに登山口の確認をしたとき、軒下の大きな雀蜂の巣にたっくんびっくり「すご〜い」。

 鬱蒼とした杉林を過ぎ小さな滝、竹林を進んでいく。今日は誰もまだ登ってないのかクモの巣がまつわりつく。たっくんが先頭になり木の枝で巣を払ってくれる。約30分で明るい尾根にで、杉林から雑木林になる。緩やかな山腹を快適に歩く。人の気配に驚いてトカゲがあわてて逃げる。不幸にも見つかったトカゲはたっくんの好奇の対象となりシッポをつかまれ、しばし鑑賞の上赦免となりあわてて逃げていった。程なく雑木林の間から鹿岳が見え隠れする。

 今日は頑張ってビデオカメラを持ってきたので、花や景色を写す。家で待ってる妻や娘たちと、山の楽しさ、自然の美しさを共有したい。できれば、「すばらしいわ。今度一緒に行きたいね」となるように努めて険しそうなところは撮影対象から除外する。
 約30分で大天狗峠に到着。ちょっとひと休み中にたっくんがガイドブックにある「大天狗」と彫られた石を見つけて回る。「見〜つけた、あ、これは何だろう」と側の石を裏返してみると、天狗の姿が彫られた石であった。しばらく倒れていたんだろう。だいぶ汚れている。しっかり倒れないようにしてあげる。これより急登。ところどころにアカヤシオが見えだした。立木につかまりながら登る。早くも息が切れる。たっくんは元気に登る。上の方から「お父さん早く〜」と声がかかる。くやしい、今回も頂上への一番乗りを果たせなかった。

 頂上ではたっくんが「ぶよ」?蜂かな?と奮闘中。ぶんぶんと飛び回っている。神宮像のある山頂はあまり広くない。鹿岳、妙義方面がわずか見えていたが、ガスがでて何にも見えなくなってしまった。「あ〜あ、今日は展望は無理かなあ」と近くのアカヤシオを撮影していたら、なんとスッキリと展望が開けてきた。ラッキー、これより後はガスがでる事はなかった。たっくんにこれから登る鹿岳を教える。「ふーん、あれか、すごいねえ。わりと近いじゃん。でも、あんなところ登れるの?」

 少し戻り、2峰へ向かう。こちらの方が展望がよい。下に下仁田の市街が見える。3峰、4峰とそれぞれ違った展望が楽しめる。浅間山にはまだ残雪が見える。雄大だ。3峰前後には、真新しいロープが張ってありそれを伝って登る。心強い。

 4峰からは急な下りとなる。たっくんは滑るように下る。ずぼんのお尻を泥だけにして滑っている。楽しそうだ。滑ってたら石っころも転げてきた。たっくんに注意する。「石を落としたりしたら、石っと大きな声で叫び他の人に知らせるんだぞ」「は〜い」少しして「たっく〜ん」と大きな声。振り向くとたっくんが転んでいる。「そうそう、その調子、気イつけるんだぞ」などと言いながら下る。近くに見えた鹿岳だったが、なかなか近くならない。もうすぐ1時になる。昼食は鹿岳の景色のよいところでと考えていたがまだまだの様子だ。まだ下っている。ようやく、マメガタ峠に到着。これよりまた登りとなる。

 たっくんが疲れて駄目だったらここから大久保側に降りようと思っていたが、むしろ元気のないのは私の方だ。一応たっくんに確認する。「どうする?」「大丈夫だよ、お父さんが駄目なら降りてもいいよ」だって。空元気では無さそうだ。当初予定通り鹿岳征服に向かって微速前進だ〜。本当に征服という言葉がぴったりだ。今までのところ、全く人に会わない。(これからあとも今日は登山者に行き会わなかった。連休中なのになあと不思議に思う)今日は二人だけの山だ。

 杉林の中を急登する。たっくんは元気がいい。「休もうよ」と私。「まだ、まだ」とたっくん。どんどんと先に行く。「待ってくれ〜、一人で行くと危ないよ〜」と私。これより、たっくん隊長となる。

 数回の休憩を繰り返しやっと南峰の下に着く。すごい。切り立った岩壁に圧倒される。上部より水滴が雨みたいに落ちている。「んっ?」見上げると昨夜の雨の影響か岩肌から落ちている。シャワーみたいだ。たっくんが水滴の下に行く。「気持っちいい」さっそくまねをする。一服の清涼剤だ。手で受け止め顔を湿らす。 日陰部分の通路は水滴でグチャグチャだ。気を引き締めて右に回り込み登るとわずかでコルだ。先ずは南峰(一ノ岳)征服だあ。先が見え元気を振り絞る。

 下高原への下り道の案内板横からさっそく木で作られたはしごを登る。アカヤシオが出迎える。コルからわずか10分で頂上だ。まずは、昼食の準備。それからゆっくりと展望を楽しむ。あれが妙義、あれが荒船山、え〜とあれは**と地図を広げ確認していく。これほどよく見えたのは朝の天気から考えれば想像もつかない。だれも登ってこない。上半身裸になり日光浴をする。静かだ。ガイドブックのとおり、少し下がったところが展望は良い。さあ、次は本峰(二ノ岳)の征服だ。コルに戻ってザックを置き身軽になって登り始める。

 本峰の方が登りにくい。更に慎重に登る。岩場には、ロープや木のはしごが用意されており、慎重に登れば子供でも大丈夫だ。たっくん隊長に「ゆっくり、ゆっくりだぞ」と声をかける。「うん、副隊長」だって。振り向けば先ほど登った南峰が対面に見える。登ったときはあまり感じなかったが、やはり凄い岩壁だ。本峰も南峰同様アカヤシオが綺麗に咲き誇っている。展望も申し分ない。山頂より少し南に下がった岩からの展望が素晴らしい。360度の展望をビデオにおさめる。いやあ、重たいビデオだが持ってきて良かったとつくづく思う。

 ゆっくりしたい気持ちを抑えつけ、帰路に就く。雑木林を滑るように降りる。転んだら隊長交代と取り決め降りる。急な下りで時々隊長交代となる。やがて薄暗い杉林となる。テープやロープで道は分かりやすい。程なく爽やかな水の流れが聞こえてくる。沢を流れる水で顔を洗う。生き返った気持ちだ。水が切れていたので飲みたかったがちょっと不安で我慢する。少しして「水神様」とかかれた神様様なものがあり、麓の民家のものであろう取水口らしきものがあった。たぶん飲み水に使っているんだろうと判断し沢の水を口に含む。「おいっしい」、我が故郷では子供の頃やはり山から引いた水を飲料としていたが、何となくその味に似ていると思った。それから数分で道路沿いの下高原登山口に到着した。ここには近くに登山者のための広い駐車場があった。10台以上は軽く止められそうだ。

 これから車の通行に気をつけ車道沿いを小沢橋まで戻る。約1時間かかるが、景色を眺めながら歩いているとそれほど気にならない。都会での1時間歩きとは大違いだ。18時、車に到着。家に無事下山の報をいれる。19時15分帰宅。入浴後さっそくビデオ鑑賞会だ。うん、よく撮れている。家族の評判は??ちょっと怖いところも予定外に写してしまったため、「きれいねえ、でも怖そうなところねえ。」だって。

 たっくんも大満足だったみたいで、地図の知識、草花の知識、山の登り方、体力作り等々、学校ではできない学習ができて、課外授業としては非常に有意義であったと自らに言い聞かせています。(学校休んでこんな事ができるのも、小学生の時だけですからね)何よりも誰にも会わずたった二人で山の征服に挑戦した親子のコミュニケーションで子供の成長に我ながら驚きの一日でもありました。

 行き帰りの杉林歩きは薄暗く景色も見えないが、ガイドブックにかかれている「スリルと展望。アカヤシオの花で岩肌は薄紫色……」は全くその通りで、道標も案内板やテープで分かりやすく、静かで険しさと優美さが程良くミックスされた、安心して歩ける山でありました。