雪を踏みしめ西上州「立岩」ハイク         
     
1995年12月30日(土)晴

 今年最後の山登りは、急峻な岩壁を連ねた日本離れした風景から「西上州のドロミテ」と呼ばれる「立岩」とした。今年は大津山行で西上州の魅力に取り付かれ以後、春、秋、初冬と西上州びたりとなってしまった。
 時間が許せば経塚山から荒船山もと思ったが、分岐を見落とした為、断念してちょっぴり不完全燃焼であったが晴天と展望に恵まれ、雪を踏みしめての楽しい登山で今年の山登りの幕は閉じた。

線ガ滝登山口…南コース…鞍部…東立岩…鞍部…西立岩…東展望台…威怒牟畿不動…登山口 
0930                            1125-40                   1255


 西上州の村落は岩壁を背にして川沿いに静かなたたずまいを見せる。南牧村から星尾の集落を経て、立岩が天高く聳える風景が見え始める頃から道路は日陰部分では積雪しており、ここで滑ったら一大事、慎重に運転して線ゲ滝をめざす。

 さあ出発だ。ガイドブックでコースを確認…と思ったら何と忘れてきたようだ。見あたらない。仕方ない、地図で確認する。では出発時刻をメモを…と時計を見ると何とこれも忘れている。不注意で先行き不安になる。今年最後の山行にしては、ちょっとお粗末だ。反省………

 途中時間が分からないのは不安だ。とりあえず万歩計で判断しようと気を取り直し、出発する。登山口付近の川は氷の下は水が流れているが表面は凍っている。登山道も1cm位の積雪だ。登山道入口の案内板には南コースは後から追加されたらしい。南牧村で整備した時に記入したものであろう。中級コースの表示があった。
 展望のない杉林のジグザクの単調な登りを繰り返し登る。やがて雑木林となり又杉林となり一汗かいた頃ガレ場下のベンチに到着。そして丸太の長い階段を登り急なガレ場となり、長い鎖が設けられている。振られないように上下をきっちり固定されており跨ぐようにして登る。次は、岩壁に斜めに付けられた鎖場だ。右手は絶壁、道幅約50cm位と緊張する場所だ。しかし、慎重に登れば問題はない。先ほどまでは殆ど風は無かったが、このガレ場は狭くなっている為か、ゴーゴーと風が吹き抜ける。「寒い!!」。程なく鞍部に到着。

 東立岩をめざすが、この付近は場所によっては10cmくらいで踏み跡が雪で分かりにくい。テープ等の標示も見あたらない。しかしめざす岩は見えており、安心して進む。岩尾根の手前でどうも道からそれたらしく、木に掴まりながら尾根をめざす。枯れ葉と雪で滑る、滑る。どうにか尾根に出て低い灌木をもぐりながら通過し到着。風が出て寒い。記念撮影の後、早々に鞍部に戻る。

 鞍部から立岩をめざす。こちらの方は東峰と違って道は良く整備されはっきりしている。この位の雪でも間違うほどではない。立岩手前の急登では雪がなければ何でもない所だが、設置された鎖が有り難く思える。僅かの稜線歩きで標識のある西立岩山頂だ。経塚山、浅間、八ヶ岳方面の展望が素晴らしい。風はないが暖かいお茶がうまい。何時だろうか?時計がないので無線で時間を尋ねようとメインでCQを出したら、自宅でワッチしてた妻とつながる。11時26分とのこと。しばし交信を楽しんだ後、この時間なら予定通り経塚山まで行けそうだ。4人連れが登ってきたのを潮に山頂を後にする。ここからちょっと下った東展望台も西上州の山並みの展望が素晴らしい。

 展望台から急な下りを鎖を頼りに降りると尾根歩きである。途中の岩壁を鎖で登ると木々の間から展望を楽しみながらの雑木林歩きである。雪は相変わらずで下りは滑るように降りる。何度か転びそうになったがこれも楽しみのひとつである。
 そろそろ経塚山への藪こぎの分岐かと注意していたが、何となく分かりにくい。立山まで1kmの表示の所のササの中に何となくテープらしいものがある。しかし、確かガイドブックには威怒牟畿(いぬむき)不動との分岐で左に折れず真っ直ぐ…と書かれていた記憶があり、もう少し先だろうと下り始める。しかし何となく方向が違う。

 やっぱり違ったか、しょうがない、戻ろうか……と思い進んでいたら絶壁の岩場の下に朽ち果てた威怒牟畿不動についてしまった。食事もしてないし、時間からして戻って経塚をめざしても暗くなってしまう可能性があり残念だが諦めることとした。不動に寄ってみたが、上から水滴やつららが時々落ちてくる。気を付けてお堂を覗いてみる。今は信仰する人も居ないのか、今にも倒れそうだ。

 ここまで雪道には人の通った形跡はなく、数種類の動物の足跡だけであったが、この不動の所から下は沢山の靴後があった。ここまで来た人が居るのだろうか?
少し下ったところから星尾峠経由で荒船へ行く分岐があるが、そちらに行った人がこの不動まで来たのかも知れないな…等と思いながら木々の間から登ってきた立岩の勇姿を楽しみながら下る。

 杉林になり程なく南コースとの分岐となり、登山口付近の凍った川に到着。氷に触れてみたくなり川に降りてみる。石を投げてみて固さを確認、トントンと靴先で蹴ってみる。大丈夫、乗れそうだ。5mもあろうか天然のスケートリンクだ。童心に戻り登山靴で滑ってみる。

 登山口から線ゲ滝までいってみた。別名「仙が滝」というそうだ。昔、凄い美人がいて若者達の羨望の的であったが、嫁にいって、髪結いが出来ず姑にいじめられ悲観して滝の上部から身を投げたそうだ。丑三つ時にはその娘のすすり泣きが聞こえるという。滝の上部は凍っていたが、一条の滝は切れることなく流れていた。

 忘れ物で最初つまづいたが、雪を踏みしめての山歩きは楽しかった。時間的にも手頃であり、岩場や危険なところには鎖があり、ところどころベンチも設置されて展望を楽しむことが出来る。春や秋にも再度訪れてみたい。その時こそ果たせなかった経塚、荒船へのコースで藪こぎも楽しみたいものである。