鎖場に緊張した西上州「高岩」
95年11月18日(土)快晴
快晴だ、山に行こう。しかし、昨日までの北海道一週間の出張で疲れが抜けていない。どこにしよう?行程が短く展望がよくスリルが味わえるところを目的にガイドブックをパラパラッとめくる。「裏妙義連峰・谷急山の西方にある高岩、展望が素晴らしい双耳峰の岩山」という文面が目に入った。男岩は垂直に近い岩場を登るので自信のない人は……の文面が気になったが「よし、ここにしよう」と決定。いやあ、文句無しの展望とスリルある山行が楽しめた一日でした
高岩登山口…見晴らし…雌岳(女岩)…鞍部…雄岳(男岩)…鞍部…野外教育センター…駐車場
0900 0940-55 1020 1025 1050-1105 1125 1145 1155
国道18号から車窓に眺める妙義、裏妙義はいつ見ても心躍る風貌である。JR横川駅を過ぎ入牧橋より入牧川沿いに走り、下平の集落辺りから高岩が見えるようになる。近づくにつれ「凄〜いっ」「ええっ、あれに登るんかあ、大丈夫かなあ」と不安になる。真っ青な空に向かってそそり立つ雄岳・雌岳に身震いすると同時に登行欲をそそられる。
上信越道の碓氷軽井沢ICを左手に望み僅かで西毛野外教育センターに到着。ガイドブックではここに車を止められるとあるが閉館中で門も閉まっている。また、林道を少し歩くと赤坂入口の指導標があるとなっているが、上信越道の開通で林道が無くなったのか、どこにも案内がない。教育センターと八風平キャンプ場の間をしばしうろうろとする。ようやく緊急避難路の先の道路脇にそれらしい細い道を見つける。少し奥にはいると「八風平自然探勝路」の指導標を見つける。多分ここで正解と思い車を止める。雑木林の中を少し歩くと高岩への小さな表示が右手にあった。うっかりしていると見逃してしまいそうだ。
更に雑木林を落ち葉を踏みしめて進むと尾根に出て僅かな急登となり、もろそうな岩場が現れる。特に問題はなく通過。冠雪した浅間山がくっきりと望める。僅かでコースを左にそれると見晴らしに到着。ここからの展望も素晴らしい。そそりたつ雄岳、谷急山、裏妙義、稲村山、山急山etc……
分岐に戻り雌岳をめざす。ここは3つのピークがあり最初のピークの岩の割れ目から覗く自然の額縁に納まった浅間山の景観も興味をそそる。2つめは急峻で登れない。3つめは登れる。眼下を覗くと目眩がしそうだ。
雄岳に1人の男性が見える。そそりたつ風貌からはとても登れそうに見えない。本当に登れるだろうかと不安になる。3つめのピークから急な下りで鞍部に到着。これからの鎖場の挑戦に、はやる気持ちを抑えひと休みとする。さあ、登るぞ〜
紅葉も過ぎた樹林もわずかで、岩の基部に到着だ。見上げれば、どこまでも続くような大きな岩の割れ目に自信が揺らぐ。「登れるだろうか…」数本のかけられた鎖に心を落ち着ける。最初の鎖場は頭上に覆い被さるようにほぼ垂直だ。距離は5m程か、必死に鎖を握りしめ足場を探し登る。ザックが反対の岩に引っかかり登りにくい。次の鎖はそれほどでもない。どうにか数本の鎖を登り、最後の鎖場だ。最初の岩場以上に垂直で手強そうだ。
登り口がちょっとした岩棚みたいになっておりそこでひと休み。吐く息も荒い。どうやったら登れるか暫く思案だ。よし、行くぞっと気合いを掛け挑戦するが、最初の一歩が進まない。何度かぶら下がるがうまくいかない。「無理かなあ、諦めるか、ここまで来て残念だなあ。でもあの男の人は登っていたし……」と逡巡する。
「そうだ、ザックが無ければ登りやすいかも」と考え、イボイボの滑り止めの付いた手袋も脱ぎ、ザックを置いて改めて挑戦する。「んっ、どうにか行けそうだ」ゆっくり、しっかり鎖を握りしめ岩の出っ張りを掴み登る。やった〜登れたぞっと1人静かに満足する。私にとっては今迄で一番の難しさであった。でも、これくらいで手こずっていたんでは、密かに考えている表妙義の縦走コースは大丈夫だろうかと不安になる。
最後の鎖を過ぎると僅かで山頂だ。ここからの展望は先ほどの見晴らし以上だ。浅間山は勿論、360度の展望だ。しばし展望を楽しむ。しかし残念ながらザックを途中に置いてきたのでビールはお預け、地図での山岳展望は出来ずであった。展望をしっかりと瞼に焼きつける。下を見ようとするが、高度感からか、足が竦み、なかなか際の方まで行くには度胸が入る。幸い風もなくどうにかのぞき込むことが出来た。吸い込まれそうな深さだ。風があったらとても覗くのは無理であろう。
1人登ってきたので次に北方に控える二つのピークに登る。低木をかき分け痩せた稜線に注意して歩く。どこからみても雄大な展望だ。雌岳に登っている人が見える。また1人登ってきたが、相棒がなかなか登ってこないとのことで鎖場まで戻り「お〜い、大丈夫かあ〜」と声をかけている。返事がないようだ。
心ゆくまで満足感に浸った後下山開始だ。鎖場まで来ると、先ほどの人が心配そうに連れを待っている。まだ返事がないそうだ。恐る恐る覗いてみるが下はよく見えない。暫くして返事があった。途中の鎖場で声もかけれないほど緊張していたのであろう。最後の鎖場まで来て「どうやったら登れるんだあ?」等と言っている。 連れの人が私のことを「待ってる人が居るから早く登ってこ〜い」と言っているが急がせては危ない。笑顔で「ゆっくりいいですよ」と声を掛ける。暫く待っているとようやく顔が見えた。緊張で顔がこわばっている。
さあ、順番が来た。下りは、より大変だろうなと思っていたが以外とスムーズであった。これもザックが無いせいであろうか。ただ、腕は思いっきり疲れた。途中でザックを背負い無事全部の鎖を通過。これより鞍部から野外教育センターをめざす。 最初はかなりざらついた急斜面で滑りやすかったが、やがて石の多い緩やかな道となり杉林が見えてくると直ぐにセンターだ。工事中の人が「車置いてるなら3時頃には門閉めるからね」と声を掛けてくる。工事中の時間帯は車を止めても良いようだ。駐車場には「260円」(だったかな)と書かれていた。
センターを後にし、道路を歩き車に向かう。ICにつながる広い道であるが、カーブの為飛ばしてくる車に恐怖を感じながら到着。わずか3時間の行程であり、歩きにはちょっと物足りなかったが、内容的には十分満足した山行であった。
帰路の車窓から眺める雄岳・雌岳の高岩は依然天空をめざしそそり立っている。