猿にびびった晩秋の表妙義縦走    1995年11月24日(金)晴時々雪

 さあ表妙義縦走の幕は下りた。裏妙義縦走、高岩、二子山と西上州の山を舞台に紅葉を楽しみどうにか奇峰・岩峰への自信もついてきたところでの挑戦となった。 天候に恵まれ好展望の中、妙義山の真髄に迫るスリル満点の岩尾根縦走は長時間歩いたせいか膝を痛めたものの、突然の降雪、猿軍団の出現、晩秋の紅葉、岩峰歩きの「動」と静かな樹林帯の中間道歩き「静」で満足の一日であった。

妙義神社登山口…大の字…白雲山…天狗岳…相馬岳…茨屋根……鷹戻し…金洞山東岳…中岳
0600       0642-0703  0745   0817  0855-0905 0950-1005 1120  1158-1240   1255
……西岳…第4石門…本読みの僧…第2見晴らし…妙義神社…駐車場
   1315   1415     1526      1550      1620     1640       


  この時期は日の暮れるのも早い。早立ちを決意し伊勢崎を4時30分出発。5時半には駐車場着。あたりはまだ真っ暗だ。はやる気持ちを落ち着けコンビニで買ったパンと牛乳で朝食をとり、コースの確認。
 まだ暗いが、途中で夜明けを迎えようと6時出発。妙義神社はまだひっそりとたたずんでいる。不気味だ。右手からコースに入り、杉の樹林帯を抜けそのうち雑木林となる。振り向けば眼下に町の灯がちらほら灯り、東の空も明るくなってきた。夜明けの雰囲気はいつもおごそかだ。程なく鎖のある岩峰の「大の字」展望台に到着。ふーんこれがいっつも下から見えてた「大の字」かとさり気なく触って見る。
 さあ、これより上級コースとの案内板の文字に気を引き締める。石の階段を登りつめると岩窟の中にひっそりと奥の院はあった。これより右手の二段の急な鎖場を直登し見晴しと呼ばれる岩場の稜線にでる。先日登った裏妙義方面が一望できる。 お、あれが丁須岩かなと双眼鏡で確認する。

 これよりいよいよ縦走コースの始まりだ。手始めに白雲山頂前の鎖場を難なく通過、玉石と書かれたピークに到着。あれっ、白雲山頂はどれかなと探す。わずか戻り何の変哲もない山頂を確認し大のぞきに向かう。ようやく太陽が雲の間から顔を出してきた。暖かさを感じる。ここからは天狗岳の大岩壁が見事だ。浅間山が雪を被って見える。綺麗だなあ。
 これからの歩きに心が躍る。しかし踊ってばかりいられない。すぐに長〜い滑り台状の鎖場が待ちかまえている鎖が冷たく手が痛い。慎重に、慎重に……無事に降りほっとひと息をいれる。ここからは岩場もなく割と気軽に上り下りを繰り返し、天狗岳さらに相馬岳と快適なコースだ。裏妙義や浅間山方面が見事な景観をいつまでも見せてくれる。浅間山をバックに気持ちよく記念撮影だ。

 これより快適な稜線歩きから、一転して急下降となりガレ場を通りホッキリを通過し茨尾根のピークだ。裏妙義国民宿舎の赤い屋根が見える。今日はまだ誰にも出会っていない。静かな山歩きだ。この展望、この快適な縦走コースを独り占めしているような感激に浸っていたが、ここで哲岳さんの報告にあった猿軍団のことを思いだし不安になり、もし出てきたらどうしようと思案しながら先を急ぐ。
 「中之岳迄3時間」の表示のある自然歩道との分岐あたりから西の空の方が突然不気味な黒い色になってきた。ひと雨来るのかなと思いながら下っていると、なんと雪が降ってきた。ヒョウのような粒の大きさだ。うっすらと白くなってきた。このまま降るようなら岩が滑るだろうなあと心配になる。

 しかし、何となくコースがおかしい。確かに踏み後はあるが方向が違うようだ。もう少し下ってみようと思い歩いていると、とうとう踏み後が分からなくなってきた。周りを見渡してもテープや表示のたぐいは見あたらない。「間違ったか」とひとりつぶやき「どこで?」と気を落ち着けて下ってきた方向を眺め、とにかく戻ろうと決断する。
 このころは雪も止んでいた。このくらいならまだ岩歩きに支障はなさそうだとほっとしながら来た道を慎重に探りながら戻る。先ほどの分岐のちょっと下の約15分程戻ったところの岩場に矢印を発見。胸をなで下ろす。よく観察してみると確かに間違った方にちゃんとした踏み後はあるが、地図をよく見て気をつけておけば矢印は見落とすことはないと思われるような所だ。
 猿への不安と、空が黒くなり急いでいた為間違えたのだろう、単独行の場合はより慎重さが必要なのに……と深く反省する。約35分のロスとなった。

 気を取り直し、さあ元気に再出発だ。そろそろ「ゆきタヌ」さんの報告にあった怖そうな所だなと思いながら歩いていると、あった、あった。なるほど右側は切り立った崖でポツンと突き出た小さなとんがり。確かに身を翻してくぐり抜けるといった感じだ。右手にある小さな木を掴みどうにか通過。この木は根っこのところがなんとなく貧弱で今にも岩から離れそうだ。太った人は要注意だろう。遭難碑に合掌。ここは「キケン」と書かれていた。正規のルートは東側に巻いて行くようだ。
 この後このコース最大の難所と思われる鎖と梯子の連続だ。いやあ、とにかくしんどかった。やったあ、爽快な眺めだ。登ったぞ。鎖も終わり一息ついたところで振り返ってみていると下の方に人影が見える。今日初めての登山者との遭遇だ。しがみつきながら必死に登ってきている。「がんばれっ」と心の中で声援を送り鷹返しに到着。ほっとしたのも束の間、登れば降りるのは当たり前であるが、登り以上のしんどそうな2連の鎖場。とにかくしっかりと鎖を掴み一歩一歩慎重に降りる。 腕の力が抜けそうだ。さすがに上級者コースである。スリル満点だ。

 わずかで第4石門との分岐を金洞山方面に向かう。東岳山頂で昼食とする。展望は相変わらず素晴らしい。しかし大砲岩も上から見ると面影なしである。
 太陽がちょっと陰ると寒い。暖かいラーメン、コーヒーが最高にうまい。持参したビールは寒いのとこれからも控えている鎖場を思うと飲む気にもならない。程なく先ほどの登山者が登ってきた。お互い厳しい鎖場をたどってきた親近感からか話が弾む。彼は「お先に」と中岳を目指す。
 また雪が降ってきた。風も出てきた。寒い。ヤッケを着込む。ここらで以前ちょっとした下りで痛めた左の膝が痛くなってきた。寒さのせいでぶり返してきたのであろうか?中岳に先ほどの人が見えた頃出発する。中岳手前は急な岩場であり、鎖がほしいところだ。尾根も切り立っている。こんなところで突風でも吹かれたら一巻の終わりだ。やっとの事で先日たっくんと登った記憶のある中岳に到着。

 さらに鎖場を降り、西岳を目指す。雪ももう心配なさそうだ。明るくなってきている。膝の方はどうにか持ちこたえそうである。鞍部を過ぎ休んでいると先ほどの登山者と遭遇。「山頂までどうですか?」「ちょっと怖そうなところが2、3カ所あるけど慎重に行けば大丈夫と思いますよ」と言葉を交わし分かれる。今日の縦走コースではこの人と出会っただけである。猿もいなかった。

 さあ、最後の西岳はもう少しだ。鎖のほしそうな所に一本の古びたロープ。ピンピンと引っ張って見るが心配はなさそうだ。次には右も左もすっぱりと切り立った狭い稜線。距離は短いが緊張の一瞬である。最後に垂直にも思える岩場である。爽やかな?高度感である。で、西岳に到着。山頂からは辿ってきた金洞山やその前の稜線がでこぼこてっぺんを誇っているのが見える。う〜ん、満足満足。しばし行程を振り返り感慨に耽る。おっ、妙義湖もきらきらと輝いて見えるぞ。
 Gさんが挑戦した星穴ってあの辺かなあと思いを馳せながら下山開始。

 鞍部からは慣れた下りである。しかし膝が痛くなってきた。極端にスピードが落ちる。登るときよりも下る方が痛む。しかしゆっくり歩けば心配はなさそうだ。
 第4石門に到着。本当に今日は人がいない。平日の山はいつもこんな感じなのであろうかと思いながら石門越しに大砲岩を満喫する。静かだ、どこからか鳥の声が聞こえる。ここから神社に降りて道路を駐車場まで辿る予定であったが、この脚でも時間から見て中間道をいってもまだ明るいうちに着けるのではと思いルート変更をした。

 中間道は関東ふれあいの道にも指定されており、いつか歩いてみたいと思っていたのでいい機会である。ここらはまだ紅葉の名残は残っている。紅葉はまだ真っ赤な色づきのも多かった。岩で緊張した縦走もおもしろかったが、樹林帯の中の歩きもまた良いものである。ここで二人連れのハイカーに遭遇した。
 金洞山の下部に当たる大きな庇状の下をおっかなびっくりくぐり抜けると今度は長〜い鉄の階段の下りである。178段迄数えてみたが、逆コースではしんどいだろうなあと思いながら痛い膝をかばってさらに下る。東屋を過ぎ「本読みの僧」といわれる石仏に到着。何となく本を読むふりをして居眠りしているように見える。左前方には天狗岳等が凛とそびえ立っている。

 「ギャッ、グワッ、ギャアー」と突然けたたましい叫びが……びっくりして周りを見回すと何とたくさんの猿の出現だ。走ってくるもの、木から木へ飛び回っているもの、餌だろうか、何か拾っているもの。時間から見て夕食時なのであろうか、あの群に襲われたらと戦慄が走る。そっと道ばたにあるこぶし大の石を2個拾って握りしめる。かなうものではなかろうが、いざという時には最大限の抵抗を試みようと手に汗握って静かに進む。第二見晴らし迄来たが依然猿は辺りを駆け回っている。こちらに害意は無なさそうな雰囲気である。わずか2m位のところで餌をあさっているものもいる。見向きもしないで……ちょっと安心したところで見晴らしに登ってみる。ここからの展望も茨尾根、金洞山、金鶏山が素晴らしい。

 さあ、もう少しだ。猿どもは展望に見とれている間にどこかにいってしまったみたいだ。猿よけに鈴をザックにくくりつけチリンチリンと鳴らしながら進む。ちょっとした下り坂で足下に注意しながら、もう大丈夫だろうと持っていた石を捨てようかと思い目を上げると、小さな橋のようなところの手摺りに猿がチョコンと座っているのに目があった。「やばい、ここで目をそらしたら襲ってくるのでは…」と思いじっと見つめる。猿もじっと見つめる。
 その距離わずか1mもない。相手も戸惑っているんであろう。左の5m程離れた木の上では仲間の猿であろう。ギャーギャーと喚きながら木を揺すっている。仲間の危機を知って威嚇しているのであろうか。と、手摺りの上の猿がパッと右手に飛び去った。一瞬「来たかっ」と身構えたが飛んだ方向から見てこちらの勝ちみたいである。その頃からたくさんの猿が又方々で叫んでいる。勝利の余韻に浸ってはいられない。長居は無用、足早に立ち去ることとした。

 しばらく歩いていたらいつの間にか猿軍団は潮が引くようにいなくなってしまった。第一見晴らしの手前である。そろそろ人間界の領域に近くなってきたのを察したのであろうか。猿の驚異も去り見晴らしから眺める町に安堵を覚える。西日が当たって輝いて見えるようだ。もう石もいらないようだが、生死を共にしようとした(ちょっとオーバーかな)石を捨てる気にならず改めて眺めてみると何となく格好の良い石である。記念に持って帰ることとした。

 ここらで綺麗な紅葉も見納めである。後0.6kmで妙義神社の道標に励まされ16時20分神社到着。登るときは暗くて分からなかったが、鬱蒼とした雰囲気は変わらないものの銀杏の黄色さが際だって見えた。麓の土産物屋でコンニャクと煎餅を買い車に向かう頃には急激に落ち込んだ太陽でもう暗くなっていた。あと10分も遅かったらライトを使っての下山となったであろう。よかった、よかった。

 後日談であるが、今回の無理がたたったのか、膝の痛みは次の日にピークを迎えやむなく医者通いとなった。診察の結果は「ちょっと無理したんでしょうね。まあ心配は無いでしょう」。しかし1週間たっても調子が戻らず記念すべき10週連続登山は断念となった。(2週間後に鹿沼・岩山で無事再起致しました)
 また、生死を共にした(?)石は当日一緒に風呂に入り、ブラシで磨き上げられ今も我が家の玄関の靴箱の上に鎮座している