兜岩山から経塚山、そして立岩

生憎の曇り空でいつも家の窓から見える赤城山も見えない。でもしばらく歩いていないので欲求不満である。展望は期待できないが歩きたい!!ということで以前から気になっていた兜岩山やローソク岩に行ってきました。ついでに急峻な岩壁を連ね「西上州のドロミテ」と形容される立岩も欲張ってしまった。久しぶりの西上州、静かな山と奇岩に満足の一日でした

【登山日】  1997年3月23日(日)曇り
【山  名】  西上州 兜岩山(1,368m)、経塚山(1,423m)、立岩(1,265m)
【同行者】  単独
【行  程】  線ケ滝…星尾峠…御嶽山…兜岩山…星尾峠…経塚山……立岩…線ケ滝登山口
         0845   1025   1050  1155-1215  1310 1340-1420  1535  1630
【参考書】  群馬の山歩き130選(上毛新聞社)
【地  図】  西上州・妙義(昭文社エアリアマップ 1/60000図)

 今日は歩きに徹するということで地図とにらめっこする。どうせなら2年前に行った立岩、それに荒船山の最高峰、経塚山をグルッと歩こうと計画する。前回、立岩から荒船山に向かおうとしたが分岐を見つけられず断念したいきさつがある。兜岩山は野峰さんと黒斑山に登った際佐久方面からの帰路に車窓から眺め、いつか歩いてみたいと思っていた独特の山容をした山である。

 下仁田から南牧村方面に向かい砥沢、羽沢の集落をすぎると右手にど〜んと立岩が聳えている。いつ見ても見事だ。早くも足がうずく。しかしまずは兜岩山からだ。線ケ滝登山口には数台の車が止まっている(気温6度)。澄みきった沢沿いにマツダランプの古くさい標識に案内され星尾峠をめざす。道は整備され歩きよいが杉林のため展望は良くない。花粉症の人には感激?の山であろう。今日は風も少なく花粉は飛んでないように見える。ところどころ雑木林になり沢沿いでは小鳥が戯れている。40分も歩いた頃、道はジグザクの登りとなり一服すると立岩の展望が素晴らしい。左手には経塚山の樹氷が見事だ。しばし見とれる。そして田口峠への道と合流しわずかで威怒牟幾(イヌムキ)不動からの道と合流する。ベンチがありまた一休み、雑木林と沢の音、鳥の声が心を和ませてくれる。久しぶりの山歩きは応えるなあ。でも気分は良い。

 ここからは雑木林の自然林となり落ち葉踏みしめての心地よい歩きだ。シジュウカラやエナガのかわいい鳴き声、コゲラのリズミカルなドラミングが迎えてくれる。そして星尾峠だ。ここは交通の要所みたいに四方に道が分かれている。まずは兜岩山方面だ。ここまで雪は全くなかったがところどころ残雪が現れる。アイゼンが必
要なほどではない。落ち葉に隠れた凍結に注意を払いながらアップダウンの連続する尾根歩きだ。結構急な登りの後御岳の分岐に到着。ここらは樹氷が見られた。わずかで御嶽山、銅像が建っている。木々の間から荒船山の絶壁から経塚山が見える。稜線は白い綿をかぶったように樹氷に覆われている。ローソク岩も見事な風景だ。そして分岐に戻り今度はロープもある急な下りだ。
 前方にはニョキニョキッとロウソク岩、まずは左手が切れたった崖ぎわを過ぎ孫ロウソクに到着。とても登れそうにはないなと思っていたら、裏側から簡単に登れた。絶景である。よし、次は子ロウソクを征服だ!!と登ろうとするが岩がポロポロと崩れ落ちる。即断念「危険ですので岩に登らないで」との表示もある。次は本命のロソク岩、子ロウソクからの尾根は熟達者向きとある。自然歩道は右手を巻いて行けるようだが、やはりスリル満点の熟達者向きを選ぶ。かなり急なところを凍結に注意し木の根っこに捕まりよじ登る。そして狭い岩綾だ。足がすくむ。ここでよろけたら一巻の終わり…しかし無事通過、眼前に聳えるローソク岩も登るのは無理(しかしどうしてこんなポロポロとした岩なんだろう?)左手から威圧するような岩を眺めながら回り込む。

 これよりわずかで分岐を右にとり笹をかき分けひと登りで兜岩山到着だ。樹林帯のためあまり展望は良くない。少し先に行ったところが開けているが今日は生憎の天候で眺望はいまいちだ。天気が良ければ八つや北アルプス、浅間山が素晴らしいそうだ。確かに尾根歩きの時は靄っているとはいえ見晴らしはよい。好天の時再度訪れてみたいところだ。今日は先が長い。休憩も程々に往路を戻る。途中、今日初めての登山者に遭遇。そしてその後あと三組に出会う。静かな山っていいなあ。

 星尾峠まで戻り休んでいるとゴジュウカラがすぐ近くで木をかけ下っている。霜どけでちょっとぬかるんだ道を登る。空腹で元気が出ない。艫岩との分岐には誰が作ったのか雪だるまが鎮座している。経塚山方面は結構雪が多い。日当たりが悪いせいであろう。二本のストックが威力を発揮しアイゼン装着は不要だ。木々は樹氷で化粧している。雪かなっと思い見上げると樹氷がはがれ、きらきらと落ちてきている。綺麗だなあ。これで青空がでていたら申し分ないのだが……そしてついに山頂に到着。ここも展望は良くない。しかし静かだ。聞こえるのはパラパラと落ちる樹氷の音だけだ。気温は2度、温かいコーヒーと餅入りラーメンは最高のごちそうだ。

 この頃から霧が出てまったく眺望が無くなってきた。さあ、次は立岩だ。柱状の岩がごろごろとしている。珍しい光景だ。そして背丈ほどもある笹藪、非常に歩きにくい。ストックを前に掲げかき分けながら進むが腕が疲れてしんどい。下は凍結しており滑りやすい。いっそもぐったらどうだろうかと試してみる。笹のトンネルだ。この方が歩きやすいがやはり長続きはしない。我慢してかき分けかき分け進む。進行方向に笹が倒れているときはまだ少し歩きやすいが、逆の時は本当に始末が悪い。泣きが入ってきた頃立岩への分岐の表示、「立岩ヤブ」とある。ここまでも結構なヤブであったが、それにも負けないくらいの笹藪。かなりの急坂だ。これは登るほうがしんどいだろうなあと思いながら歩く。そしてようやく威怒牟幾不動との分岐にでてほっとする。
 立岩まで1kmの標示。時間が無理ならここから不動の方に降りようと思っていたがまだ大丈夫だ。気力を振り絞り歩く。鎖場、痩せ尾根と続くが慎重に歩けば問題はない。途中で単独行者と出会いしばし雑談「いやあ、生憎の天気ですねえ。ところで今日この付近の沢で熊が出たそうですよ」だって……おじさんの手には長い柄の着いたナイフ、なにに使うのだろう?

 山頂にはベンチが備えられている。前回きたときは絶景であったが、今日は全くガスの中、静寂だけが漂う幻想的な雰囲気だ。静かにコーヒーを味わう。少し雪も降ってきた。稜線鞍部からの下りは岩壁に斜めに取り付けられた太い鎖、足場も狭く切り立った崖である。今日一番の難所を慎重に下る。そして急なガレ場だ、人出が多いときには落石による事故が怖いなあと感じる。次は丸太の階段が歩きにくい。下から見上げる立岩の頂上はガスの中、どこまでも天を突くかのようにそびえ立っている。いやあ、よく歩いたなあと我ながら感心し広々とした雑木林、そして暗い杉林を経て雪の降る中登山口に到着した。