アカヤシオはまだだった西上州 烏帽子岳
1996年4月29日(月)晴
今日はあのTさん夫妻とのアベック山行である。どんな人だろう?
Tさんとはまだ面識がない。イメージはおぼろげながらできあがっているが、さあ、明日の山行でその人と共に歩けると思うとなかなか寝付けなかった。また、単独行の多い私は果たして知らない人とペースを会わせることが出来るだろうか?アカヤシオの花は咲いてるだろうか?ビールは何本にしようか?と考え出すとさらに眠れなくなってしまった。
どこかいきましょうかと意気投合し、話はトントン拍子で進んだ。目的は初のT家との交流登山であるから、まあ近くて所要時間も程々、いき慣れた山域、運が良ければアカヤシオの花花花、そして展望の良さを考慮して、目指すは西上州の烏帽子岳に決定した。
待ち合わせの私の目印は、帽子に付けたワッペンである。初めてこのワッペンが役割を果たすことが出来た記念すべき日でもあった。
さて待ち合わせ場所に現れたTさん。果たして印象通りの人であったかどうかは私の胸の内に仕舞っておくことにする。Tさんも私の印象がイメージ通りであったかどうか……それは不明である。しかし、登り初めて僅かでまるで以前からの知り合いでもあったかのように打ち解け、和気愛愛の楽しい山行で満足した一日であった。
シボツ沢登山口…群界尾根…マル…烏帽子岳…マル…シラケ山方面岩場…コル…登山口
0910 1035-45 1118-1230 1530
上信越道下仁田インター出口で待ち合わせ、初対面の挨拶後車窓に四ツ又、鹿岳を眺めながら下仁田市街を抜け、山間部の大仁田集落を過ぎ荒れた林道に入りシボツ沢登山口に到着。途中大津の登山口にはアカヤシオの花を求めてだろう、数人の登山者が支度中であった。烏帽子岳の登山口には既に数台の車が止まっている。昨年来た時には、山肌に山吹の黄色が咲き誇っていたが、今年はまだ咲いていない。花期が遅れているようだ。
路端の黄色いネコノメソウに見送られ沢沿いの雑木林を緩やかに登る。ところどころハシリドコロが見られる。これを少し食べれば元気が出て走って登れるのでは等と冗談を言いながら登る。まだ新緑の芽吹きには僅かであり、葉の落ちた雑木林は明るく気持ちがよい。途中の岩の上にアカヤシオが数本咲いている。とりあえず花を見ることが出来て一安心である。
やがて僅か流れていた沢も涸れた頃奥の二股に到着。これより右手の群界尾根をめざす。左手の直接コルに出る方はかなりな急登で手がかりも少なく滑りやすい。一方右の方はフカフカとした枯れ葉が気持ちよい。「ま〜だ〜」とぐずり始めたタックンに「もう少し、ほらもう見えてるよ」「もうすぐもうすぐ」となだめるがなかなかこちらの方も急な登りである。息も絶え絶えにようやく尾根に到着。「ミズ、水、みず」
例年ならこの尾根からマル、コルにかけて花のトンネル歩きが楽しめるのだが、今年はつぼみすら見えない。烏帽子岳山頂より高いマルより右に折れ、急坂を下りコルに到着。途中Tさん夫婦が花のつぼみを幾つかみつける。あと一週間くらいが見頃であろうか。コルからは山頂を見上げ「えっ、あんなところどうやって登るのお!!」と妻の悲痛な叫びをさらりと受け流し「あんなに見えてるけど、登って見れば簡単簡単」と気持ちを落ち着かせる。実際、急な所もあるが、それなりに手がかりがしっかりしており問題なく登る。
途中山頂に数人の声がしていたが、私たちが着いた時はもう誰もいなかった。若干靄がかかっているものの、360度の展望は申し分ない。日差しが強いが、木陰もなくビールが旨い。持ってきた2本のビールが心地よく喉を潤す。「そんなに飲んで帰り大丈夫?」と妻。「大丈夫大丈夫、この暑さですぐに汗になって蒸発してしまうよ」本当にもう一本飲んでも問題ないくらいだ。
素晴らしい展望と、気のあった(今日初めての会ったTさんであったが、まるで旧知の友のような感じ、奥様も気さくな人で我妻と気があっているようだ)Tさんで更に旨さが倍加する。しかし残念ながらTさんは飲まないとのこと。「ええっ、飲まないのお、信じられない。きっと後半の歩きでトップを狙っているんでは……」と有らぬ疑いの眼差し(冗談です、気にしないでね)を向ける。
山頂の北側にはツツジのつぼみが見られたが、周りにチリ紙などのゴミが散乱し折角の花が台無しだ。まったく散らかした人の気が知れない。自分たちさえよければと言う考えなのであろうか、残念である。
楽しく写真を撮ったり食事をしているうちにだんだんと山頂が人で埋まってきた。それほど狭い山頂では無いが飽和状態だ。20人は軽く越えていたのではなかろうか。後から来た人たちは膝突き合わせての食事である。ふと山頂への道を伺うと山頂に入りきれない人は、諦めたのか途中の道や岩場で弁当を開いている。岩場では赤ちゃんのおしめを替えている人もいた。後ろは崖!!度胸のある奥さんだ。しかし、この天候と展望で皆楽しそうである。
混み合う山頂を後にし、烏帽子岳の風貌を眺めてみようと、とっておきの展望箇所に向かう。いったんマルにでてそこからシラケ山方向に下り、踏み後はあるが結構ヤブっぽい感じの尾根歩きから岩場に出る。「ええっ、こんなとこいくのお」とタックン、妻より非難の声。Tさんご夫婦はニコニコ笑顔だが果たしてこの岩場気に入ってもらるであろうか?内心「どこまで連れていくつもりだろうか?」等と思ってるのではと僅か心配になるが、身振り手振り足ぶりを見ても皆まだ元気は残っているように見える。
大多数の反対の雰囲気を背に受けながらせっせと進む。。。。時間的には僅かで烏帽子岳の全貌が見える岩場の上に全員無事に到着。ぐずっていたタックンも遠く山頂にいる人に「ヤッホー」と声を出し楽しそうに手を振る。
「ここまでこなきゃあ烏帽子に来たことにならないよ。素晴らしい展望なんだから」と強引に上ってきたが、まさしくここの岩場は展望お薦めである。天狗岩展望台や周りの屹立した岩峰の景観が素晴らしい。これで花が山肌、岩肌を覆っていたら最高であろう。しかし、花はなかった。
Tさん、本当はここって花が大変美しく見えるところなんですよ。
帰りは登りに遠慮した方の急坂を下る。乾燥した砂埃が凄い。タックンは親の心配も気にせずズボンの尻を真っ黒にして滑り降りる。子供は元気が一番だ。それに引きかえ、大人4人の下る姿勢は本当にぎこちない。無事急坂をクリアーし途中の沢で顔を洗う。冷たくて気持ちよい。私は水割り用に水を持ち帰る。
いやあ、楽しい山行であった。持ち帰った沢の水で飲む水割りは最高だ