雪辱の日光白根山 99年12月4日(土) 快晴
昨年の同じ時期、吹雪で全く視界のない中、彷徨うこととなった日光白根山、そして寒い中ビバークを余儀なくされてしまった。そして今年夏その時お世話になった岩穴へのお礼登山では遭難者らしい遺体を見つける等因縁深い山である。今年こそは雪をたっぷり楽しんで無事に戻り楽しい山行の思い出にしようと歩いてきた。さて、その結果は…
行程 湯元……前白根山……避難小屋…奥白根山…避難小屋…前白根山…湯元
0740 1115-1120 1150ー1210 1355-1415 1450 1530 1705
メンバー 単独
地図 昭文社エアリアマップ「日光」1/50000図、男体山1/25000図
湯元温泉
途中湯の湖に映る山の景色を車窓にすると湯元の駐車場はすぐだ。わずか路面が凍結しているがこのあたりはまだノーマルタイヤでも問題なかった。今年は雪が少なそうだ。
駐車場で準備しているとお巡りさんが見回りにやってきた。9人ほどのパーティーと話している。「登山届けは?天気変わりやすいから気を付けて…無理と思ったら迷う前に引き返して下さいね」等と指導していた。
私も準備してきた登山届けを提出する。「単独ですか?気を付けてね」
トレース無し
湯元からの登山道は木の根っこや荒れた道で悪路、近年益々ひどくなっているようだ。途中女性の人が下ってきた。「早いですねえ、上で泊まったんですか?」「腰が痛いんで引き返しです。トレース無いんで楽しめますよ」言葉通りリフト終点のちょっと上からは新雪をかみしめて歩くことが出来た。このあたりはまだ雪は少なかったが、吹き溜まりでは膝を越える積雪。ここで雨具の下を着る。尾根に出てからは目印を探しながら進む。今日は晴天、見通しがきくから良いがガスってたら要注意だお巡りさんが言っていた。「昨日も降りましたからね…」 樹林帯は新雪、ズボズボっと膝上までもぐる。トレースの無いのも楽しいが疲れる。ずっと後ろの方には駐車場で会った9人組が続いているはずだ。追い越して貰うかなあと思ったが、いつまでも姿が見えない。まあ、いいか…
今日は風も弱く暖かい。0〜−1度C位だ。万全の準備をしてきたが毛糸の帽子は脱ぎバンダナに変える。手袋は薄いもの、フリースも脱ぎ長袖シャツと長袖下着で十分だ。しかし風が吹いたらこの天国みたいな気持ちよい尾根歩きは一変するので要注意だ。
右から男体山、大真名子、子真名子、女峰山、そして太郎山
前白根山
前白根ももうすぐと言うところで見晴らしが良くなる。
富士山だ〜、おおっ、奥白根が白く凛々しい!!そして遠くの冠雪した山々。う〜ん、絶景かな。
前白根山頂から望む日光の山々が勢揃いだ(上の写真)
天気が悪くなるようだったら、ここで引き返そうと考えていたが、その兆候は全くなし。しかし雪のため予定より約45分遅れ、休憩もそこそこに避難小屋をめざす。
ワカンの出番
前白根からの下り、雪はほとんどないが風が少し強くなり、小石が飛んできて顔に当たる。眼下には凍結した五色沼が見える。これからしばらく眠りにつくようだ。この眠りが又来年の初夏には沢山の高山植物を楽しませてくれることだろう。
鞍部まで下ると小屋への分岐までちょっとした登り、ここから雪が深くなりもぐって歩けなくなった。さあ、ワカンの出番、新雪の為いまいち効きが良くないがそれでもスムーズに歩けるようになった。今日の山行は、これからの冬山(といっても本格的な雪山は対象外だが…)に備えてワカン、アイゼン、ピッケルの感触をつかみ寒さになれる事も目的のひとつである。昨年、道が分からなくなりラッセルに苦しんだ苦い思い出がよみがえる。ほんとあの時はつらかったなあ…ようやく避難小屋着
分岐から小屋までの樹林帯は、雪がなければたいした下りでないが、今日はちょっと勝手が違う。道が分かりにくいことと、雪のため岩が見えないため思わぬところでズボっとくる。そして小屋に到着。ちょうど奥白根から降りてきた人と一緒になった。プラスチック?で出来たワカンを履いている。菅沼から奥白根経由で来たようだ。あちらの方が登山者がおおいようだ。
いやあ、良かった、トレースを付けてくれたようで安心し状況を訪ねる。「時々目印あったが、樹林帯では良く道が分からなかった。適当に下ってきたがかなり急なところも通ったので登りはきついだろう」とのこと。う〜ん、どうしよう。まだ天気は大丈夫だし、ここまでの雪もそれほど多くなかったしまあ大丈夫だろう。一応トレースもあることだし登る事に決定。気を付けてと分かれる。さあ、山頂めざして
時間を記録しようとメモ帳を探すが見つからない。あの時、落としたのかな?
小屋前からはまだ雪も少なく問題なく歩けたが樹林帯に入ってトレースのあとをたどるが、結構もぐりとても歩けない。登りはきつそうだ。またまたワカンの出番だ。ワカンを付けていると、又単独の男性に出会った「ありがとう、トレース付けて貰って助かりました。いやあ、大変でした」 、「ん?、私、今から登るんです。先ほど男性降りてきたので、その人のトレースでしょう」と情報交換。この人ワカンを持ってないようだった。苦労したことだろうなと思いながら登りはじめる。去年迷ったのはどこ?
トレースのため道はわかりやすいが、それにしてもズボズボともぐって歩きにくい。夏道とは大分違っているようだ。目印も殆ど見あたらない。これじゃあガスってたらほんと迷ってしまいそうだ。振り返り去年迷ったのを思いだし、じっくりと地形を確認する。今日は見通しがよいので「あのあたりにさまよい出たんだから…ふ〜ん、あのあたりを下ってしまったんだな」と昨年の行動を反省する。厳しい登り
見上げると結構な岩の間をトレースが見える。とても登りではあの直登は無理だなと判断し、正規のコースと思われる右方へ迂回する。眼下に五色沼が見えるのでこっちの方が夏道であろう。しかし、殆ど夏道のコースはどこか分からない。歩きやすそうな所を選んで登るが、なかなかしんどい。今日は安全登山が目標だ。山頂到着までの残り時間が気になる。14時が限界である。それまで着きそうになかったら途中で引き返そうと決意も新たに必死に登る。
どうにか樹林帯を抜け、草付きの斜面となり広い雪面の山肌が見える。凍結したら怖そうだな〜幸い今日はまだ凍結には至っていない。ようやく尾根に出てワカンを脱ぐ。そして今年の夏ツエルトで泊まった窪地、祠を過ぎ山頂にめでたく到着。限界の14時まで5分を残すのみだった。菅沼方面に下る7人パーティが見えた。この素晴らしい展望をたった一人で楽しむ。何という贅沢!!
山頂より、前白根を前景に日光の山々が手に取るようだ。意外と雪が少ないなあ
奥白根山頂
山頂は雪は全くない。風で吹き飛ばされてしまうのであろうか?真っ白く冠雪した燧ガ岳、至仏山など尾瀬方面の景色は最高、富士山もまだ見えている。
しかし時間が余り無い。日誌にこの素晴らしい景色を瞼に焼き付けて下山開始とする。
下りは快適
下りはさきほどの単独行者が付けたトレースをたどる。樹林帯までは岩の間や急坂を強引に下っている。時間も遅くなりちょっと雪が締まり始めたのか、滑るように下ったかと思うと、突然足が抜けなくなったりする。そりに乗った感じのように滑り降りてみるが、なかなか思うように滑らない。そんな感じで楽しみながら下ると程なく樹林帯となる。ワカンを履こうかなと思ったが、小屋も近そうだしそのまま下る。そして小屋着。これから稜線まで登るかと思うとあまりゆっくりも出来ない。登りは暑かろうとフリースを脱ぎ身支度していたら、3人組が降りてきた。この三人は小屋泊まりだそうで大きなザックを担いでいた。「トレース使わせて貰いました。ありがとう。ところでこれ落とさなかった?」 とメモ帳を差しだした。途中で拾ってくれたのである。いやあ、助かりましたと礼を述べ前白根をめざす。3人組が歩いたため登りは楽に歩けた。でも、やはり疲れたのか足取りは重い。
日暮れてようやく下山
前白根では時間があったら雄大な奥白根をスケッチしようと思っていたが、時間がない。それに風も出てきた。秋の日はつるべ落とし、もう今は冬、暗くなる前に降りなければと奥白根の勇姿に別れを告げちょっと急ぎ足。日暮れたらだだっ広いから迷いやすそうだし、せめて外山の分岐までは明るい内にたどり着きたい。山の色が夕焼けを迎えるかのように暖かな色彩になってきた。急げやいそげ…分岐に16時到着。これならどうにか無事下山できそうだとコーヒーブレイク。さあ、最後の元気を振り絞って下るか。帰路は天狗平へ下る。こちらはトレースがなかったが旧道に下る分岐さえ間違わなければ大丈夫だろう。天狗平らのちょっと下で分岐の表示を確認。山肌をトラバースする感じで登りに直登したコースに合流。ここからはもう間違うことはないだろう。だいぶ日が陰ってきたが、雪のため意外と明るく感じる。しかし木の根っこや急坂と悪戦苦闘して登山口に着いたときは空には星が瞬いていた。予定より約1時間遅れの下山だった。
山頂からも電話が繋がらなかったし携帯で家に連絡入れようとするが繋がらない。まあいいかといろは坂を下っていたら無線で呼ぶ声が…「無事に下ってきたよ」 「ああ、良かった日光白根だから心配してたよ」と交信する。これからも益々安全登山に心がけなくっちゃと肝に銘じながらも次どこ行こうかなあと思案しながら帰路についた。