
2002年7月13日(土)晴れ
蟻の戸渡り(八方睨方面から)
日帰りで行けて涼しくて少し厳しいところに行きませんかとお誘いを受けた。う〜ん、厳しいところというのが印象深くて、じゃあ、戸隠〜高妻山を日帰りでと言うことになった。しかし結果は…
行 程 奥社登山口…奥社…五十間長屋…蟻の戸渡り…八方睨…戸隠山…避難小屋…キャンプ場
0615 0645 0745-0805 0903 0920 1115-1212
1345
メンバー 常吉さん、酒呑童子
地 図 妙高・戸隠(昭文社 山と高原地図12)
このコース、以前から暖めていたもので、機会あればと思っていた。実は数週間前に決行を試みたが天候が悪いとの予報に断念(実は天候だけでなく朝寝坊もあったんだが…)
で、お誘いを受けた時すぐにこのコースが閃いた。もう一つの候補は八ケ岳の真教寺から県界尾根コース、どちらも涼しそうではないが、厳しいという点では折り紙付きです。で、行った事のない戸隠強行山行となった。
前日まで約一週間も出張。体調万全と思っていたが、ここに今回の山行の悪魔の赤ちゃんが潜んでいた。そして山行前日、ロングコースでもあり、体調十分で望もうとあまり利用しない高速道路を使い、奥社の駐車場に着いたのは午前1時過ぎ。そして常吉さんも到着。常吉さんとは日光の切込湖で半年前にスノーハイクで遊んでもらったのが初めての出会い。その懐かしさから話も弾みビールで乾杯。そして水割り…気がつけば3時前になっていた。「じゃあ、明日頑張ろうね、お休みなさい」と就寝。ここに悪魔の赤ちゃんが成長し、恐〜い悪魔へと成長しつつあった。
朝!5時前に起床。好天だ!木々の間からピークがのぞき見える。いやあ、突き上げるような急登みたいだねえ。しかし頭がふらふらする。ちょっと寝不足かな。さあ、行きましょうと奥社めざして大きな杉の参道を歩く。小鳥の声が爽やかだ。杉の巨木は荘厳さを感じさせてくれる。樹齢600年を超えるらしい。
実はこの山行を是が非でも行きたいと思ったのはもう一つの理由がある。それは…
内田康夫氏の 「戸隠伝説殺人事件」を読んで戸隠という地名や歴史に興味を持ったことにある。小説は「戸隠は昔から数多くの伝説を生み、今なお神秘性に満ちた土地だ。長野実業界の大物、武田喜助が鬼女紅葉の伝説ゆかりの地、毒ノ平で毒殺された。戸隠村矢立神社では男女二人が…中略…通称、信濃のコロンボ竹村警部が難事件に挑む本格伝記ミステリー」というもの。下山してきたら戸隠神社の見物と戸隠そばを堪能するのも目的の一つだ。
常吉さんの快調な歩きに、少し汗ばみながら歩調を合わせる。随神門を過ぎ、奥社の手前で左に曲がり社務所のところで登山届けを投函「戸隠から高妻山、日帰り」と…この時は体調はまずまずのようだった。しかし睡眠不足でたっぷりと育った悪魔が風のないどんよりとした蒸し暑さでその触覚をのばしてきた。滑りやすい急登の登山道。蒸し暑い。急に胸がむかむかしてきて「………うっ」と吐き気を催し、登山道の脇でしゃがみ込む。
神聖な山を汚してしまった(;_;) なんと常吉さんも悪魔に蝕まれていたようだ。しばらく休んでいると年輩のご夫婦に追い越されてしまった。
そしてどうにか五十間長屋に到着。倒れ込むように座り込む。いやあ、もうここでいいやって感じだが休んでいると気分が少し良くなってきた。重い腰を上げ歩き始めるとすぐに百間長屋だ。よくもまあ、こんな岩壁が自然にできるものだなあと感心する。どこかで見た雰囲気。そうか、表妙義中間道の「本読みの僧」のあるところに似てる。少し登って振り返るとさらに岩場がでっかく見えた。ここらでまた息が切れる。全く休んでばっかりだ。ふと見ると岩壁に鎖が…上を見るとなにやら登れそう。鎖場を見ると元気が出る。早速よじ登ってみると小さな祠がまつられていた。残雪の槍・穂高も見えた。う〜ん、いい感じ。高度感ばっちり。ここは西窟、これで少しは体調戻るかなあ…
そしてわずか岩場を登ったところで左手に大きな岩、鎖があった。休憩の口実にちょっと登ってみましょうと声をかけ登る。ここは天狗の露地だ。凄い高度感。西岳方面の展望が素晴らしい。二人で狭い岩のてっぺんで展望を満喫。ふと常吉さんが「あっ熊だ」と西岳方面の谷筋を指さす。「どこどこ?あっ、いた!」二頭いる。なにやらあまり動かずにもぞもぞしている。沢ガニでも捕ってるのかなあ。幸いここまでは相当距離がある。こんな距離なら安心してみていられる。二人とも過去に熊との遭遇経験があり、本当は熊は怖いのだ。
ここからは鎖場が連続する。直登したり、トラバースしたりバラエティーがあって楽しい。そして最後の鎖場「胸突き岩」だ。ドッコイショと登り切ると、眼前に「蟻の戸渡り」が出現。ついにやってきたぞ。胸が躍る。こんな岩場は大好きだ。この時ばかりは体調の悪いのもどっかに吹き飛んでいた。気を抜いてはいけない!よく転落事故もあるらしい。無理だったら格好を気にせず四つん這いになって行こうとガイドブックにあった。
稜線の両側はド〜ンと切れ落ちている。岩場の稜線は肩幅ほど…結構な高度感だ。右手下は巻き道みたいになっているが、そちらも岩肌についた道でなかなか険しそうだ。
体調良し!足場良し!風なし!ゴー!いやあ、爽快。とんとんと小気味よく進む。そして続く難所は剣の刃渡りだ。ここは距離は短いがさらに狭い。股下がスースーとする。引き込まれそうな感じだ。こちらの方は巻き道はない。もう行くしかない。中腰、馬乗り…など考えたが、慣れない動作はよけい怖そうな気がする。エイヤッっと思い切って最後の難関はピョンと飛ぶ。ふ〜無事通過。さあ、常吉さんどうぞって声をかける。
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蟻の戸渡り |
やっぱりこれが安心! |
おっと、きわどい姿勢! |
常吉さん、最初は立って歩いていたが、やはりちょっと怖いと感じたのか、それとも我が輩みたいに無謀なことはしないよ〜と冷静なのか、最後は馬乗りになって無事通過。顔は笑っていた。果たしてカメラがとらえた表情は…
やはりここは馬乗りになるか這って慎重に渡るのが正解でしょうね。突然の突風なんか来たらちょっとビビッテしまいそうです。さあ、今日の核心部は終わり、頑張ってチムニー状の岩の間を登ると、そこは八方睨みです。

素晴らしい展望が待ちかまえていた。槍ケ岳や白馬など北アルプス方面もばっちり。そして西岳へと続く稜線、きれいな姿の高妻山が眺められる。西岳は今度こようか?ところで高妻山は遠いねえと、まだこの時は体調不良ながらもあそこまで行くんだとの気力は衰えていなかった。単独の人がいたので「素晴らしい展望だねえ」などと話していたら、この人から「ホームページを開いてるよ」って話になりアドレスを教えてもらった。山でこんな出会いがあると楽しいものですね。
これより右手は大きく切れ落ちた絶壁。木々がある為それほど高度感は感じないが、転倒などしたら大変だ。慎重に歩く。いったん下り戸隠山へ…しかし何の表示もない。次のピークかなあと進むが、やはり何の表示もない。地図から見るとこのあたりだが?わからないままに右手の岩壁に圧倒されながら先に進む。ニッコウキスゲの黄色と岩壁の取り合わせが疲れた体に安らぎを与えてくれる。熊のものと思われる真新しい糞が登山道に時々見かけた。もしかして近くにいるんでは…などと心配しながら歩く。この稜線結構上り下りが厳しく、一つピークにたどり着くやひと休み。三角点らしいピークがあった。三角点にしてはちょっとおかしいなあと思いながらも、ここが九頭竜山だろうと言うことで無理矢理納得。
そしてまだ上り下りは続く。反対方向からきた単独行の人と挨拶。三角点のある山ありました?と聞くと、この先にはないという。やはり先ほどのがそうだったのだろう。お腹もすいたし途中で休もうかと話していたが、この分なら避難小屋まで近そうだしと先を急ぐ。赤土の滑りやすい下りや、正面に見える高妻山への途中の五地蔵山への景色は果てしなく疲れを倍増させてくれた。もはや、我が輩の心は「高妻山、断念か!」で揺れていた。
そして這々の体でカマボコ型の避難小屋に到着。高妻山へ行くかどうか、結論を出す前に少し休もうと中でごろんと横になる。ぜーぜーと肩で息をする。頭もなんかもうろう状態。そういえば、シャリバテのような感じ。登りはじめで、みんな戻してしまい胃の中は空っぽ状態だったのだ。だが、食欲はわかない。しばらく横になっていたら少し気分が晴れてきた。外に出ると、なんか雲行きが怪しい。雷も遠くの方でなっている。「やめようか、高妻山…」と常吉さんに伝える。「………そうだね、雲行きも良くなさそうだしね無理はやめましょう」と決定した。時間的には行けないことはなかったし、ご飯を食べて元気も盛り返してきたが、やはり今日の体調では自信がない。
完全にあきらめた心境にはなかなかなれず、後ろ髪引かれる思いで下山とする。涸れ沢伝いの歩きにくい下りだ。10分位で水場に到着。ここまで避難小屋から水汲みにくるのはちょっとしんどいねえ等と話しながら冷たい水で喉を潤す。ますます道は歩きにくくなってくる。「いやあ、高妻山行っててこの厳しい下りは疲れてたらやばいね。行かなくて正解だったかも…」と敗退の気持ちを納得させる。そして不動滝の落ち口にでて、鎖を頼りに右にトラバースする。
そしてまだまだ歩きにくい沢のゴロゴロした石の中を歩き、最後の鎖場「滑滝」に到着。濡れていてちょっと緊張したが無事通過。ここをすぎると道は緩やかとなり気持ちの良い樹林帯となる。このころ雨がぽつりぽつり、そしてすぐに大粒の雨となった。「いやあ、高妻山行かなくて良かったね。二日酔いのおかげで助かったねえ。決行していたら、今頃稜線で冷たい雨に打たれていたね」とようやく、高妻山断念の正しい選択に気持ちの踏ん切りがついた。キャンプ場からバスで奥社の駐車場に戻る。
日帰り温泉「神告げの湯」で汗を流し、生ビールで無事下山を祝し「乾杯!」。そして一眠り、その後場所を変え「戸隠そば」を食べる。そして冷酒、旨かったなあ…大雨の中、今宵の酒やつまみの買い出しに行き、鏡沼の駐車場で屋根をたたく雨の中、車中で明日の好天を願いながらまた酒宴となった。もう明日は山登りはない。安心して飲もう(^0^;)
翌日は、鏡池で雲に隠れた西岳の写真撮影。「秋になったら西岳挑戦しようか?」、そして小鳥の声を眺めながらの森林公園散策、戸隠宝光社の見物をして帰路についた。
反省
登山前日の飲み過ぎで、体調不良なんて事の無いようにしましょう。危ないですよ(-_-;)
自己弁護するようですが、そんなに沢山は飲まなかったんですよ。ほんと…ただちょっと飲んだのと、睡眠不足、それに熱気むんむんの厳しい暑さ。思いのほか厳しかった稜線のアップダウンの重なりで参ってしまったようです。常吉さん、これに懲りずまたどっか行きましょうネ

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