花いっぱいの火打山、でも雨ばっかり  
 
          妙高山(2,454m)、火打山(2,462m)

     
         1997年7月12日(土)雨〜13日(日)雨時々曇り


笹ケ峰登山口…黒沢…富士見平…黒沢ヒュッテ…大倉乗越…長助池分岐…妙高山……分岐
0515        0610   0735    0825-40    0905   0933    1040-1105  1140
大倉乗越 …黒沢ヒュッテ…高谷池(泊)
1220-25   1240-1255  1350     0645発
…天狗の庭…雷鳥平…火打山…天狗の庭…高谷池…富士見平…黒沢…登山口
0700     0730   0810-35  0925    0940-1000  1030    1125  1200 


 初めてのテント泊である。どこにしよう…湿原で花でも眺めながらゆっくり過ごそうかと思い前々から気になっていた花の楽園と池塘「火打山&妙高山」とした。
 各地で大雨警報が出ているが、新潟の方はどうにか大丈夫らしい。今回は一緒に行く予定であった人が都合で行けなくなり単独となった。ちょっと不安である。新調したテント、家で一度張ってみたり、重さを実感するため谷川岳まで背負って歩いてみたり縫い目にはシール材を塗ったりと準備は万全である。しかし自炊となるとさすがに荷物が多い。数日前からこれはいらない、いや必要かなと出したりいれたり、気がかりであった。でもビールとウイスキーは必需品だ。まあ重くてもしょうがないな。
 で、金曜日の夜中出発、こんな日に限ってJRが約50分も遅れ帰宅が遅くなりばたばたした出発となった。国道18号線をひた走り約208Km、ようやっと笹ケ峰登山口、丁度4時間の走行で2時25分着。駐車場には2台の車、おじさんが今から登ると行って出発していった。夜間登山が好きとのことである。凄いなあと感心する。

 そして小鳥の声に目覚めたのは5時前、雨は降っていないが曇り空である。天気予報はズバリ「雨」。こちらのコースは以前継之助さんから報告があったので参考にさせてもらった。緩やかな登りでブナの樹林帯を快適に歩く。かなりの樹齢のものもある。やはりブナ林は良いなあ。緑もこのところの雨続きで瑞々しい。途中から雨になり、急いで雨具を着ける。黒沢では倒木を利用した橋をこわごわ渡る。ミソサザイがすぐ近くに来てさえずりを聞かせてくれる。もうすぐ12曲りかなあ、肩に食い込んだザックが重い。かなりな急登かと覚悟していたが、それほどでもなく無事通過。しかし道がゆるくなったのも束の間、そこから先がさらに急坂である。ここは本当にこたえた。そして富士見平に到着、勿論この雨では遠くの展望は無し、でもガスがかかってないのが幸いである。

 黒沢池はコバイケイソウが花盛りである。ハクサンコザクラ、ハクサンチドリ、イワイチョウ、オオバミゾホウズキなども賑やかだ。クルマユリも僅かだが姿を見せる。チングルマはもう実になっている。水芭蕉もまだ少し頑張っていた。おや、ワタスゲも僅かだが咲いてるぞ、てな調子で歩いているとなかなか先に進まない。心休まるところである。どうにか花に別れを告げヒュッテに到着、ザックを証せて貰い置かせて貰い妙高山をめざす。途中キヌガサソウが咲いていた。僅かで大倉乗越到着。このころ雨も止んでおり振り向けば火打山方向がバッチリだ。前方には妙高山がそびえ立つ。眼下には長助池だ。いったん急坂を下る。ちょっと荒れているので慎重に下る。そして長助方面との分岐に到着。ここで初めての雪渓に対面する。それも僅かで大きな石の多い急登となる。途中で、駐車場で見送った夜間登山のおじさんに遭遇。挨拶を交わす。山頂はガスもなく展望が良かったとのこと。ただひたすらの登りだが、展望を期待し頑張る。でもザックが無くてもしんどかった。

 ようやっと岩の多い山頂到着。一等三角点のある北峰だ。展望はあまり良くない。でも火打方面や野尻湖方面はバッチリだ。南峰のほうが高いようであるがそちらはパスする。雨も降ってきたので記念撮影を済まし下山開始。雪渓では僅かであったがグリセードのまねごとを楽しむ。そしてヒュッテ着。前のテーブルで昼食、入り口に吊されたパイプ風鈴の音色が心地よい。小屋の人に別れを告げ黒沢池を左手に見下ろし茶臼山経由で高谷池ヒュッテをめざす。この頃から雨がひどくなってきた。

 ヒュッテで手続きを終え雨が小降りになるまでテント設営を待とうと池のあたりを散策する。ここも素晴らしい風景だ。雨滴で動く水面、移りゆくガス、ハクサンコザクラを初めとした花々、三角屋根のヒュッテ……いいなあ…でも雨は弱くなるどころか強くなってくる。思い切ってテントを張ることとした。水はけが良く、明日目覚めたら池の景色が良く、水場に近くetc…誰もいないテント場(20張りは可能だろう、水場も問題ない)をうろうろとしベストポジションを決定した。設営は以外と簡単に済んだ。これも練習の成果だろう。初めてのテント泊が雨とは、今回も学ぶべき事が多そうだ。二人用のテントであるが、荷物をいれると以外と狭い。晴天の時は二人でも良さそうだが、雨の時はちょっとしんどそうだ。入り口は長辺方向にあり出入りは楽だ。雨も止まずテント内で食事の準備。ガス中毒にならないよう換気に注意する。お湯が沸き始めたら凄く蒸し暑く湿度百%の状態だ。これは初めての経験だ。雨の時みんなはどうして居るんだろうか?

 食事を終えるとやることもなくぼ〜と過ごす。大事に持ってきたビールは飲む気になれなかった。それは雨に濡れたせいか、ちょっと頭が痛かった(バファリンをのむ)ことと寒かったからである。代わりに水割りをたっぷり嗜む。今日見た花を図鑑で確認したり、ヒュッテで貰った山小屋通信を読んだりしてると眠たくなってきた。ざわざわと人の声、雨の中テントを張っている。今夜は3張りだ。お互い雨の中、あんたも好きねえって思ってることだろうな。天気予報は明日も雨…

  雨は止む気配がない。先日読んだ本山賢司氏の「星の降る森で」を思い出した。雨の中初めてのテント泊での緊張と不安が細やかなデティールで描かれている。そして目覚めれば森の中は見事な晴天……今まさに我がテントもその状態、布はたっぷり水を吸いゆっくりと指を当てれば水がしみ出てくる。フライと内張りの隙間が無くなり接触している。そこからは今にも水が滴り落ちそうである。う〜ん、このままでは……で、考えついたことは間に割り箸を突っ張り棒のようにして挟むことで隙間を開けることが出来た。これで大丈夫、風がなければ問題はない。これで安心して寝ることが出来る。明日は小説の通り、素晴らしい晴天で湿原の夜明けが眺められることを夢見て……雨は依然強く降っている。

 朝4時半、雨は止んでいた。まだ明けぬ空はどんよりと暗い。やがて空が白みだし湿原もガスが出たり引っ込んだり忙しい。しかし、火打山方面は全く見えない。しばらくぼ〜と湿原を眺め時を過ごす。今日も駄目かなあ……とりあえず食事をとり天候の様子を見る。このまま火打に登ってきてテントを撤収するか、雨の降ってない今こそ撤収の時か判断に迷う。荷物の整理をしながら天気予報を聞くと、今日も雨とのこと。よし、まず撤収しようと決断し作業を急ぐ。するとそれをあざ笑うかのようにぽつりぽつりと雨が降り出す。いやあ、降ってきたぞ。急がなくっちゃ……たっぷりと水を吸ったテントは思うとおりに袋に収まらない。え〜い、面倒だと無理矢理押し込む。どうにか本降りになる前に終了しヒュッテの軒下で再度パッキングのやり直し。軽いのが謳い文句のテントも水を吸うとぐったりと重い。先が思いやられる。

 とりあえずザックはヒュッテに置き本日のメイン「花の火打山」をめざす。高谷池の周りはキヌガサソウの群落だ。ハクサンコザクラや水芭蕉も見られる。僅かで天狗の庭に到着。ここも素晴らしい花の楽園である。湿原にはイワウチワやハクサンコザクラ、ハクサンチドリ、コバイケイソウ、イワカガミが次から次へと姿を現す。見事だ。しかし、火打山方面は見えない。残念ながら火打を水面に映した地塘の景色は望むことが出来なかった。木道を過ぎところどころ見える雪渓を眺めながら緩やかな稜線を歩く。そして雷鳥平に到着。曇り空、時間も早い、まさに雷鳥が現れるのに条件は揃っているようだ。しばらく待ってみるが恥ずかしいのか出会うことは出来なかった。

 このあたりはサンカヨウが多い。花は今からのようだ。雨は時々降ったり止んだりしていたがどうにか回復に向かっているようだ。登山道に雪渓が現れる頃、一休みして振り返れば昨日登った妙高山方面のガスが切れたりかかったりで時々姿を現す。いやあ、今日は無理かなあと思っていた景色が見れて一安心である。ジグザグの登りはイワカガミの群落である。こんなにたくさん咲いてるのは初めて見た。凄い凄い。可愛らしいアオノツガザクラも見頃だ。キンポウゲも水滴で輝いて見える。山頂まで途切れることのない花園、疲れも吹っ飛んでしまう。
 山頂は割と広いが今日はたった一人で独占である。展望はない、地図であっちが戸隠、黒姫方面かな?こっちが焼山かと仮想展望を楽しんでいると、一瞬戸隠方面が姿を現した。しかし確認するのは無理であった。妙高山方面の稜線はほんの数分であるが姿を現してくれた。展望よもう一度と願いを込め待ってみるが展望の神様は二度と微笑んでくれなかった。継之助さんの報告に寄れば素晴らしい展望が望めるらしい。まあ、こんな天気だからしょうがないやとまたいつか来るぞと思いながら下山開始だ。途中山頂をめざす数組とすれ違う。皆の挨拶は「山頂、ガスかかってました?」「花が綺麗ですねえ」である。下りは登りで見れなかった周りの山々が姿を現す。

 そして高谷池ヒュッテ着。お土産にワッペンを購入し重い荷物を背負って富士見平をめざす。12曲りでは登りでは余裕無かったが、下りはすいすいである。きっちりと12有るという曲がりを数えながら下るがどこで間違ったか11しか無かった。黒沢を過ぎるとブナの樹林帯。ブナは水を吸い上げる音が聞こえると聞いたことがある。巨木に耳を着け静かに聞き入る。残念ながら葉に当たる雨の音は聞くことが出来たが吸い上げる音は聞こえなかった。登山道は雨でぬかるみ靴やスパッツはどろでぐちゃぐちゃである。登山口を流れる沢の水で泥を落とし初めてのテント山行は無事終了した。