雨の谷川連峰縦走 蓬から谷川岳  

95年10月7日〜8日 晴れ時々曇り:雨



 前回の道に迷い、蜂(アブ?)に刺され、最後には、ばててしまった白毛門山行で眺めた素晴らしい谷川岳の稜線歩きをしてみたく、山小屋泊の一泊二日コースに挑戦してきました。素晴らしい展望、荒々しい岩壁、燃えるような紅葉を楽しみにしていたんですが、雨の山行になりました。

       土合…マチガ沢…旧道経由…芝倉沢…白樺避難小屋…蓬ヒュッテ(泊)……武能岳…茂倉岳
        0740         0800    1005   1215-1300    1405  0605    0650   0830
       …一ノ倉岳…谷川岳(トマの耳)…ラクダのコル…巌剛新道…マチガ沢登山口
         0850     1010-1135      1220               1345


 穂高で初の山小屋泊まりを経験し登山の幅が広くなったような気がする。早速その時の経験を生かし、身近な山で行程の楽な一泊二日の山行に挑戦した。泊まるのは色も鮮やかな「蓬ヒュッテ」である。出発の一週間前、紅葉時期でもあり満員かなと思い電話すると「ちょっと混むけど、どうぞ」の声、「土曜日だから少し混むくらいしょうがないや」と思う。

 どうにか天候も日曜日は下り坂にむかうものの持ちこたえそうな気配である。今日の行程は湯檜曽川沿いの旧道経由で蓬ヒュッテ迄である。ゆっくりとした行程で自宅を5時45分出発とし、土合に7時15分着。すでに行動開始の人達が沢山いる。 登山届けを提出、安全登山を心に誓い静かな樹林帯の道を時折通る車に注意しながら歩く。西黒尾根登山口を過ぎマチガ沢、一ノ倉をめざす。この辺りの紅葉はまだまだ先のようだ。一ノ倉沢には沢山のテントがあり、観光客もここまでは車でこれるためかなり多い。岩が見るものを圧倒している感じである。双眼鏡で覗くと数組のパーティーが岩肌にくっついている。スゴーイ、ウワッと周囲の声。

 一ノ倉沢を過ぎると観光客も殆どいなく、一転して静かな雰囲気となる。JR巡視小屋との分岐で「旧道不可」とあるがガイドブックや地図にも載っており大丈夫だろうと芝倉沢をめざす。途中旧道では1人も出合わずはたして行けるんだろうかと不安になる。芝倉沢では飛び石伝いに沢を渡る。雨で水量が多いときには要注意だ。これより荒れた山肌を巻く登山道となる。所々藪をこぎ分けるような感じとなり、蛇、虫、ハチ刺されを用心し手袋を着用する。ここが旧国道なんて信じられない。
 右手には樹林の間から白毛門、朝日岳方面の展望が素晴らしい。ちょっとした岩場のある武能沢を過ぎると程なく白樺小屋に到着。ここで昼食とする。緑色のしっかりとした小屋である。3〜4人は無理すればどうにか泊まれそうだ。

 これからヒュッテ稜線上からの展望が楽しみだ。草黄葉や、色づいた赤い実や葉を眺め写真を撮りのんびり歩いていると、程なく「ヒュッテ迄10分、最後の水場」があった。赤いコップが用意されており喉を潤し、水筒を満たす。そこより登りつめると僅かで手前にテント場を控えた黄色いヒュッテが見える。「こんにちは」と声をかけ挨拶する。まだ2時過ぎというのに既に先客が6人ほどいる。

 夕食は5時半からというので時間を持て余す。ひま〜なひとときが過ぎていく。なーにもする事のない暇な時間、あくせくしたサラリーマンとしては最近忘れていた安らぎだ。今日は混雑しますとの言葉通り、続々と老若男女が到着する。予約無しの1人を含め33名とのこと。ガイドブックには「収容20人」とあるからかなりの混みようだ。どうやって寝るのか、食事はどうして……と不安がよぎる。外ではガス、風がでてきて天候悪化の兆し。

 それに小屋の主人がいうには「昨日(10・6)登山者が熊に襲われピッケル片手に格闘し無事逃げ延びた。明日谷川方面に行く人は用心した方がいいよ」「昨日は初雪が降った」との事。一同ビックリだ。「もう谷川岳は冬の準備にはいっており、装備も慎重に、また、上越の山では熊対策で鈴等常識だ」とのこと。単独行の私としてはまさか谷川岳で熊とは思わなかったので鈴を準備してこなかった事を悔いる。以前は持って歩いていたのだが、うるさいので最近は持ってでないようにしていた。不安がつのる。

 いよいよ食事時間だ。33人が一斉に、わずか20分もかかったろうか見事に終了だ。素晴らしい手際だ。そして就寝。場所は到着順に割り当てられる。互い違いに準備されたシュラフに入る。もちろん寝返りを打つ余裕はない。しかし見事に全員がとりあえず寝ることが出来た。いままで最高は60人位泊めたことがあるそうだ。もちろん横になれず全員膝小僧抱えて朝を迎えたとのことである。横になれるだけ幸せだ。人数が多いせいか寒くはない。ウイスキーをちびりちびり。いつしか眠ってしまった。

 準備していた耳栓を忘れ、とにかく鼾に悩まされながらも朝が来た。一斉に起こされ一斉に食事、わずか15分もかからなかった。トイレには長い列、外はガスで全く展望無し。気温は3〜5度℃くらいだ。それぞれがガスの中「お世話になりました」と言い置き旅立つ。

 ガスの中、なだらかな笹の道を歩く。展望は諦めたもののやはり残念だ。武能岳手前で期待していた展望も無理かと思われたが、しかし天は我を忘れず。西や北方面のガスが晴れ遥か彼方には少しではあるが青空も見える。武能岳以降は全くの展望無しでこれが本日最後の展望となった。これからは8時頃から雨も降り始めガスの中をひたすら谷川岳をめざす。一ノ倉岳の岩場付近で登山道に岩登り用の靴?が揃えておいている。??何故こんなところに……後ろから来た単独行の人としばしその辺りを注意してみるが特に変化無し。

 とにかく天候が良ければ素晴らしいであろう筈の縦走コースも終わりをつげ無事谷川岳に到着。トマの耳では雨にもめげず沢山の登山者がいた。オキの耳をめざす人も多い。とにかく記念撮影をするが、寒さのためかカメラが曇ってオートフォーカスがうまく作動しない。手動で合わせ撮ってもらう。肩の小屋で昼食にしようと中に入ってビックリ。超満員である。座るところもないほどだ。暫く待って場所を確保する。こんな寒い日はラーメンと暖かいコーヒーに限る。

 大雨であればロープウエイ利用もと考えたが、あちらも木道が滑るし、人は多いしと予定通り巌剛新道経由とする。ザンゲ岩だろうか。大きな岩のところは緊張した。後ろの方で「ウワッ」「キャー」…「大丈夫か!!」………「大丈夫だ〜」……「良かったなあ」との声がする。足を滑らしたが大したことはなかったようだ。雨に濡れた岩はツルツルと滑りやすい。これで更に慎重になりお陰で無事下山することが出来た。

 又、ガスで見通しの利かないときは岩に記された赤ペンキが非常に参考になる。広い岩場ではどこも通れそうであり、どの道を通ろうかと迷うときがある。そんな時、赤ペンキに注意しルートを選べばより安全である。しかし急な下りの場合はよく見えないところがあった。赤ペンキは登り側からよく見えるよう記されているのであろうか、たびたび赤ペンキから外れ降りにくい方の岩場を降りてしまった。

 西黒尾根との分岐を過ぎ巌剛新道にはいり、すぐに急な鎖や梯子の岩場となる。慎重に下る。マチガ沢の音が聞こえてくる。あの辺りかなあと思い休憩していると突然ガスが晴れ沢が見えた。白い水の流れと岩、緑の木々のマッチングが綺麗だ。
このころには雨も止んできており、東尾根も姿を見せる。更に下っていくと沢のすぐ側に着く。山小屋では顔を洗ってない(小屋には洗面用や売る水はない)のを思い出し顔を洗う。外気が冷たかったためか沢の水はあまり冷たくない。程なくマチガ沢登山口に到着。一泊二日に渡る谷川連峰縦走はここに無事終了した。

 心配した熊にも出会わず、歩き通したという満足感はあるものの、視界数メーターの中で紅葉、岩壁、展望の一部分を覗いただけに終わり未練の残る山行であった。なだらかな尾根歩き、切り立った崖、起伏のある登山道はまた挑戦したいと思わせるに十分なコースであった。下山届けを出しに登山指導センターによってみると「天神尾根、熊が出ます」と記されていた。今度から大きな鈴をザックにいれておくことにしよう。

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