道に迷い、蜂に刺され、最後には、ばててしまった白毛門
1995年9月23日(土) 曇り
土合橋登山口…白毛門…笠ガ岳…白毛門…松ノ木ノ頭沢…桧のウロ……土合橋
0610-0650 0950-1000 1055ー1230 1320 1355? 1425 1515
週末は台風到来、秋本番となり山々は、紅葉の季節を迎えようとしていますが、本格的な紅葉を待ちきれず「谷川岳の大岩壁を間近に望むパノラマ展望コース」との案内に惹かれ登ってきました。
「あ〜きのゆうひ〜に〜照るやまモミジ〜……」の紅葉にはまだ少し早いものの穂高に登った先月末以後山に行けず心は悶々としていた。先日の敬老の日に妻と赤城の鍋割山に行く予定が生憎の台風接近で断念、麓の大沼・小沼・覚満淵の撮影行に切り替えたものの紅葉はまだ少し早かった。
心の悶々は払拭されず、今度こそと計画した週末も何となく台風接近の予想で天候はすぐれないようだ。明日の日曜は殆ど雨の予報であり、かといってこの悶々とした気持ちのまま、あと一週間も過ごせない。土曜日は曇り時々雨の予報の中「え〜い、行くっきゃない」と4時30分関越道経由で谷川連峰をめざす。白々と夜が明け始めたが、水上ICから見る谷川方面はぼんやりと靄がかかっており、すっきりしない天候だが、雨の気配はない。
土合橋手前の駐車場は広くかなりの車が止まっている。テントで夜を明かした人達もいる。途中で買ったパンを朝食にこれから登る白毛門の地図を眺める。すぐに一本調子の急登とのことで気合いを入れる。
さあ、出発だ。駐車場北の堰堤工事中のところを通過し、沢沿いの小道を歩く。狭くてあまり踏みならされていない。ガイドブックにある「三菱銀行上越山荘」も見えない。こんな道が上越山荘につながっているとはどうも思えない。不安になり引き返していると7人くらいのパーティーが登ってきた。
先頭のリーダーに「白毛門はこっちでいいんでしょうか?」に「良いと思いますよ。私たちも白毛門行きです」これで安心して再度、沢沿いの道を進むと程なく沢にでてしまった。どうもおかしい???。少し前で休憩していた沢登りらしい格好をした人達にまた尋ねる。「尾根経由なら違いますよ。こっちは危険で行けません。出だしから違ったみたいですね」と親切に地図まで書いていただいて教えてもらった。「がっび〜ん」
折角持ってきた地図の確認を怠った結果である。まだまだ初心者である。先ほど道を尋ねたパーティーも少し後ろでしきりに地図と睨めっこしている。「こっちじゃない見たいですよ」と伝え一緒に戻る。駐車場まで戻りじっくりと道を確認する。あったあった、白毛門への小さな黄色い標識が地面においている。外れたのか最初からここなのか分からないが「見逃した私が悪いんです」と反省し気を取り直して再出発。(40分ロス)
登山口には「中高年登山者遭難多発、自分の技術・体力を過信しない」の警告看板があった。中高年の私は更に反省し今日の安全山行を胸に秘め鉄板の橋を渡る。しかし、上越山荘は見あたらない。不安に思い周りを見渡すと確かに白毛門への標識が今度は分かりやすく立っている。あわせて段ボール箱に、朝日から宝川温泉へのコースは行けないよと記されている。(荒れているだったか、損壊だったか理由は忘れましたが紙に書かれていました)
どうも上越山荘はもう無くなっているようだ。注意してみると標識の付近に広い場所がある。以前はここに立っていたんだろう。
早速ブナの樹林帯の中、急登となる。根っこが張り出し歩きにくいところもあるが、ところどころ丁度良い握りとしてこの根っこに助けられる。あえぎあえぎ登っていたところ突然右足ふくらはぎに急激な痛み。蜂、ハチ、はち!!?反射的に持っていた地図で追い払うとブンブンと首の周りを不気味に追いかけてくる。必死に逃げる。しつこくつきまとってくる。急な道を駆け下る。ようやく振り払い落ち着いて刺されたところを見るとなんと血が出ている。痛い。
靴下2枚重ねの上からである。動転していて蜂の姿は見れなかったが、痛さ、羽音からみてかなり大きそうに感じた。ずきんずきんと痛む。針は無いようだ。今日はついてない。道に迷った上、蜂に刺されるとは………依然新聞に載っていた「雀蜂?に刺され病院に運ばれる途中死亡」の記事が胸をよぎる……どうしたらいいんだろう。不安になる。毒があったら、口で吸い出せば…とも思ったが、どう頑張ってもそこまで口が届かない。誰も通りがかる人も居ない。もっとも誰か居ても「お願い、吸い出して」なんて言えそうもない。吸い出すかわりに消毒液で手を消毒し、患部をつまみ毒素を絞り出すよう試みる。何となく効果がありそうだ。そうして虫さされの軟膏をたっぷり塗り様子をみることとした。
単独行の一番の不安である「山でのトラブル」に初めての遭遇である。対処の知識が乏しく不安になる。反省。とにかくしばらく休憩して痛みがひどくなるようなら諦めて下山もやむなしと思い様子を見る。10分程休んだろうか少し腫れてはいるが、痺れやめまい、気分悪化の兆候はでてこない。これならどうにか行けそうだと判断し最低でも谷川の岩壁が見えるところまでは行ってみようとゆっくりと歩く。痛みは変わらない。
やがてヒノキのウロ(どういう意味か分からないが)を過ぎ、天神平ロープウエイ駅や谷川岳が木々の間から見えるようになるといくらか登りが楽になってきた。そのうち露岩が現れ明るい尾根歩きになるが、それもつかの間まだまだ登りは続く。ここらが松ノ木沢ノ頭だろうか?白毛門が見え始める。やがて森林限界となりジジ岩、ババ岩が山腹に見えるとあるが、確かに岩は見えるがどれがそうか分からない。多分どっしりと立っているのがそうかなと思いながら眺める。足の痛みは少し薄らいできた。支障はないようだ。安心する。
程なく谷川東面の随一の展望台といわれる小ピークとなり、景観に圧倒されながら社真におさめる。靄も少なくなって展望は素晴らしい。一ノ倉沢や幽ノ沢が立ちはだかっている姿に圧倒され休憩していると前橋から来たという単独行の人と一緒になる。二人で写真を取り合う。ポロポロと小粒の雨が落ちてきた。雨具を着るほどではないが、ザックカバーのみ付ける。これより、先ほどの単独行氏と途中まで一緒にと行動をともにする。健脚みたいだ。白毛門から朝日岳、清水経由で土樽までの行程という。凄いの一語だ。途中、右手に格好が人間の横顔にそっくりといってもいいくらいの大きな岩があった。これがジジ岩かな等と話しながら白毛門に到着。雨はすでに止んでいる。
山頂はあまり広くはないが、360度の展望は申し分ない。立派な山岳方位盤が設置されており、山座同定だ。谷川岳の展望はもちろん、至仏山、燧ガ岳、日光白根方面、赤城方面、武尊、苗場もバッチリだ。なだらかな谷川連峰、茂倉岳、武能岳、蓬峠、これから登る笠ガ岳、朝日岳方面もくっきりと見える。あちこちから感嘆の声が上がる。この谷川岳の山域でこれだけよく見えるのは珍しいとの声がする。確かに私の過去2回の経験では初めての展望である。これで青空だったらなあと欲がでる。
とにかく、道に迷い更に蜂に刺されながらも急登にあえぎたどり着いた絶景の白毛門山頂は素晴らしかった。刺された足の痛みも少なくなったので予定通り単独行氏と笠ガ岳をめざす。これから登る笠ガ岳方面の紅葉はまだちょっと早いものの、所々色づき赤や黄色のコントラストが美しい。あと半月もすれば目覚めるような紅葉のピークとなるんではなかろうか。クマザサの緑も爽やかだ。時間も早いし、朝日岳まで行ってみたら……との単独行氏との楽しい語らいをしながら(このとき朝日岳までくらいなら行けなくもないな、挑戦してみるかと思っていた)腰から胸までもあるクマザサの道を下る。クマザサはどこまでも続き、遠くから見れば綺麗だが実際歩くには閉口する。下は見えずところどころ木の根っこが張り出しており、注意して歩かないとコキっと捻挫しそうだ。慎重に歩くが、それでも何回か根っこに引っかかり転びそうになる。これで雨でも降った後だったら胸下は水滴でずぶぬれとなるだろう。路面も黒土のぬかるみそうなところもあった。雨でなくて良かったなあとほっとする。
真っ赤な実の付いた木々や黄色の葉っぱを付けた木々(残念ながら名前不明)、ゴゼンタチバナの赤い実、紫のキキョウ、草黄葉に写欲をそそられる。下りは元気だったが、登りになって足取りが重くなってきた。ちょっとの休憩で回復していた呼吸が、なかなか平常に戻らない。足が上がらない。この疲れようは普通でないな、これまでにも一度こんな疲れ方をしたなあと思い出した。本当に足が前に出ない。腹に力が入らない。考えられるのは、睡眠不足、空腹、体調不良、オーバーペースである。何故?と考えながらただひたすらゆっくりゆっくりと登る。笠ガ岳迄はたった55分のコースと思っていたが山頂が限りなく遠く感じた。
登りながら考えた。原因はいろいろあろうが、疲れの決定打となったのはオーバーペースとの結論に至った。先ずは道に迷ったロス時間の回復、蜂に刺され休憩した時や様子見でゆっくり歩いた時間のロス等を無意識のうちに取り戻そうとしていたのではなかろうか。それから、単独行氏と出合って共に行程を一緒にしたときからずっと前を歩いていたが、これも無意識のうちに日頃の自分のリズムと違った歩きとなっていたようだ。日頃の単独行では割とのんびり歩く私であったが、技術、体力の分からない人と歩き「遅れては」との考えが無意識のうちに自然とオーバーペースになっていたんだと思う。
バテた。もう歩けない。単独行氏に「お先にどうぞ」がなかなか言えず、口数も少なくなり俯き加減に歩く私に気づいたのか、途中から単独行氏が先になり、ペースを落としてくれたようだった。もう少しだよ、あっ山頂が見えたよとの単独行氏の声(心遣いに感謝)とにかく、数歩遅れて山頂に到着。展望は良いが見る気力がない。何はともあれ「ああ、疲れた。もう駄目だ」とベタっと座り込む。山頂では新潟から来たという二人連れの男性が食事中であった。少し休んでいるとどうにか回復してきた。単独行氏に「朝日岳まで一緒に行きたかったけどバテてもう駄目」「またどこかであいましょう、気を付けて」と挨拶を交わし別れる。
一息ついて展望を楽しむ。こちらも白毛門に負けず劣らず展望がよい。巻機山も遠く望める。朝日岳、清水峠、七つ小屋山、蓬峠、武能岳、茂倉岳から谷川岳とグルっと見渡せる。いつかは挑戦してみたい縦走コースだ。新潟から来た二人連れと後から登ってきた新潟からの単独行氏の4人で縦走コースに話が弾む。避難小屋の状況や水場、温泉の話題等楽しいひとときを過ごすことが出来た。一時風が強かったのでヤッケを着込むが汗が引いてしまえばそれほど寒くはない。ただ、写真を撮るのに強風は具合が悪い。軽さ、コンパクトを目玉に購入し持参した三脚はいかにも風の中ではひ弱そうだ。安定感が無く震えている。風の呼吸をつかみ一瞬ゆるむ時をねらってシャッターをきる。素晴らしい展望に写欲はそそられるがどうも今日は自信がない。
ラーメン、おにぎり、コーヒーで昼食を済ます。やはり暖かいラーメンはおいしい。いつもよりゆったりとした食事と休憩でバテバテだった体も順調に回復したようだ。相前後して四人とも同じコースで山頂を後にする。所々で写真を撮りながら先ずはゆっくり気分で歩く。白毛門に着く頃からガスが出てきて展望が利かなくなる。いまから登ってくる人が気の毒だ。やはり山行きは早め早めの行動がいいようだ。白毛門からの下りは結構長い。登れば降りるのは当然であるが急な下りはさすがに疲れる。あと一時間ぐらいのところから膝が笑ってきた。つま先も痛くなってきた。
途中で手頃な木の枝を拾い杖の代わりにする。何となく楽な歩きとなる。いつもステッキを持ってる人を見て、「効果のほどは?」と思っていたが、なるほど使い方によっては楽だなと感じることが出来た。ただ、道の状況に合わせてその都度使いやすい長さに調整して使用しなければかえって邪魔になるのではとの考えは変わらない。
その点、木の枝は握り部分を無制限にいつでも自由にかえることが出来るので便利だなあと思った。
最後は杖に助けられたが無事下山することが出来た。さっそく山頂で教わった谷川温泉「湯テルメ・谷川」に向かう。コナラやヤマモミジに囲まれた広々とした露天風呂は最高だ。紅葉すれば更に最高の気分を味わうことが出来るであろう。ただ、湯がちょっとぬるめであったが……内風呂も同じくらいの温度であった。入浴料500円で心も体もさっぱり爽やかとなり、紅葉には少し早かったり、バテ、ハチ刺され、道間違いとアクシデントで反省すべき点もあったものの、久しぶりの山行で満足した1日であった。