厳しい中芝新道の下り 谷川岳 (1,963m) 2001年7月7日(土)快晴
オキの耳山頂直下に咲くハクサンイチゲ
思いがけなくやってきた、梅雨の合間の貴重な晴れの週末、そうとなれば家でじっとして入られない。どこに行こう…こんな時は近くて良い山「谷川岳」だ。暑い毎日で晩酌にビールが欠かせない。たまったアルコールを抜くにはたっぷり汗をかける西黒尾根にしよう、そうだ、下りはまたたっぷり緊張できて冷や汗も流せる中芝新道にしようとそそくさと出かけてきました。
行 程 マチガ沢P…西黒登山口…ラクダノ背…トマノ耳…オキノ耳……一ノ倉岳…中芝新道
0705 0850 1005-20 1050-1110 1210…25
芝倉沢出合い…一ノ倉…マチガ沢
1405 1540
地 図 谷川岳、苗場山、武尊山(昭文社エアリアマップ)、水上(1/25,000図)
メンバー 単独
さあ、明日は早起きしなくっちゃと思うとなかなか寝付かれず、4時過ぎに目覚めたが行動が鈍い。窓から外を見ると朝焼けが素晴らしい。いやあ、もう少し早く出発すれば良かったと悔やむが、ようやく5時に出発。
前方を大型トラックが悠々と走っており、気が焦る。しかしここはしばし我慢。安全運転でようやっと登山指導センターに到着。登山届けを提出しマチガ沢出合いの駐車場まで行く。西黒尾根の下の駐車場(路側の広いところ)はいっぱいだったが、こちらはまだ1台のみだった。今日は少し軽量化したので、久しぶりにcanonEOSを持っていくことにした。小鳥の声が賑やかな樹林帯の林道を西黒尾根登山道まで若干の下りを歩く。マチガ沢よりの西黒への取り付きを登る。鉄塔までの登りが、朝一番の寝不足の体には応える。しかし、今日は何か体が軽い。鉄塔からは軽快に樹林帯の中をぐんぐん登る。日差しはきつそうだが、木陰に遮られて気持ちよい。振り返れば白毛門方面が木陰に中から真っ青な青空を背景にそびえ立っている。今日は好展望が期待できそうだ。ルンルン気分でぐんぐん登る。
最初の鎖場あたりで群馬町から来たという男性に追いつく。二人して「いやあ、今の時期にしては素晴らしい天気ですねえ」と遠くの山々を眺めながらしばし談笑。このあたりからポツポツとニッコウキスゲの黄色い花が目立ち始める。鎖場を越えラクダノ背あたりからは、最高の展望だ。トマノ耳方面はもちろん、屹立するシンセン岩峰、まだ雪渓の残るマチガ沢、そして対面は朝日岳方面から巻機山方面への稜線がこれでもかという展望を見せてくれる。樹林帯も終わり日差しが暑いのかなあと思ったがそれほどでもなく、まだまだ今日は快適な歩きが続いている。
ガレ沢のコルからは厳しい登りとなりぐんぐんと高度を稼ぐ。コースを時折見失いそうになるが、岩につけられたペンキ印を頼りに登る。変なところを歩くと落石しやすそうでやはり目印通りに歩いた方が良さそうだ。やがて大きな広い岩が現れる。氷河の跡と呼ばれているところである。この急な登りも、ホソバヒナウスユキソウやダイモンジソウ、イブキジャコウソウなどの花々が目を楽しませてくれるので以外と楽に登れた。前方を見るとトマノ耳に登山者の姿が見えるようになった。もう山頂まではわずかだ。
肩の広場にはまだ雪が残っている。清々しい気持ちになる。今日はビールは家で凍らせてきたのでこの雪には用はない。天神尾根からの登山者と一緒になりトマノ耳山頂に到着。賑やかな山頂だ。展望は思った通り素晴らしい。谷川岳でこんな展望に出会えるのはラッキーである。初めて谷川岳に来たという二人連れがしきりに感動している。いやあ良かったですねと声をかける。万太郎から平標山への稜線がくっきりと見える。また歩いてみたいなあと眺める。その奥にはまだ登ったことのない苗場山がおいでおいでといってるようだ。反対側は巻機山から尾瀬方面の山、最高!!
「山頂着いたよ〜、素晴らしい展望だよ」って携帯で妻に電話を入れオキノ耳目指して出発。いったん下ってまた登る。わずかな距離だがいったん下るのはもったいないなあ(^_^;)でも花が多いから許すことにしよう。ウサギギク、ハクサンチドリ、ムシトリスミレ、ハクサンイチゲ、ハクサンコザクラ、チングルマ、ヨツバシオガマ、ダイモンジソウ、ミネウスユキソウ、ニガナ、オノエラン…山頂直下の山肌はとくに花が多かった。沢山のカメラマンがファインダーを覗いている。のんびりと写真を撮っているとなかなか進まない。今日は一眼レフも持ってきたのでがんばって写真を撮るぞ〜っと思ったのもつかの間。まだまだ大丈夫と思っていたフィルムがなんと無くなってしまった。残念!!
以前のカメラは撮影枚数が見えたのだが、今度のは残り枚数が表示されていることにうっかりして気づかなかったのだ。びよ〜ん…後は重いだけのカメラとなり果ててしまった。
オキノ耳は割と静かだ。ここでお昼とする。暑いのでラーメンはやめてパンにする。さてビールで乾杯とするか、今日は凍らしてきたから冷たくておいしいぞ!!と一人にやつきながらビールを取り出す。ん?なんか嫌な感じ。ちゃっぽんと言う感じがないのだ…振ってみる。冷たい。しかしまだ凍っているのだ。何度やっても飲めそうな雰囲気でない。がび〜ん。丁寧にも更に保温袋に入れてきたのが失敗だったようだ。まあいいか、これから岩場の下りもあるしビール飲んでたら危ないかもしれないよな。飲むのはやめよう!!と無理矢理自分を納得させる。(^_^;)
さて、ビールも飲めないし出発するか…
オキノ耳からはまたまた標高差約130を下る。左側はガレ場になっている。つるつるになった蛇紋岩に足を取られない用に慎重に下る。ビール飲まなくて良かったなあ(^_^;)。この稜線は展望も良く快適な歩きが続く。まだ新しい富士浅間神社奥社の石の鳥居をくぐり、「ノゾキ」に到着。二人連れがおそるおそる下をのぞいている。ここからは一ノ倉沢の岩壁が一望できる。クライマーも数人確認することができた。こちらから見る谷川岳頂上付近の光景もわが輩は好きだ。
小さな避難小屋のある一ノ倉岳山頂に到着。4人くらいは入れそうだが夏は暑そうだ。このあたりで泊まるならもうひと頑張りして茂倉岳の小屋の方が格段に快適な夜が過ごせること間違いなしである。途中で追い抜いた二人連れが到着した。聞くと天神尾根往復らしい。一人は研究熱心で時間やその他気づいた点をメモしている。我が輩の下山路の中芝新道の話になり、所要時間などを話しているとメモっている。今度歩くときの参考にするようだ。
さあ、いよいよ中芝新道の下りだ。以前登ったときは本当にしんどかったが、下りはどうだろうと心が躍る。きっと厳しいだろうなあ…最初は笹原の下りで道は割とはっきりしているが、そのうち道が笹で隠れるようになるがそれも所々で問題なく下れる。ただ笹の下には根っこや石があるので捻挫しないように慎重に下る。振り返れば山肌の笹原が本当に気持ちよい。お花畑もいいが、こんな雰囲気も谷川岳の魅力である。
ぐんぐんと高度を下げる。眼前に広がる朝日岳から馬蹄型縦走路の稜線、そして尾瀬方面の山並み、巻機山方面とぐんぐんとパノラマ上に山が迫ってくるダイナミックな下りを満喫しながら下る。そのうち笹原が終わり岩場の下りとなる。歩く人が少ないせいであろう、岩場の手がかり等が自然のままって感じがする。結構厳しい下りだが適当に足場があるので問題はない。右側は険しい岩場の山肌がそびえている。左側は武能岳の縦走路がなだらかに続いている。
尾根歩きが終わりを告げると左に山肌を下るようになる。ここは滑りやすい。所々岩場や厳しい山肌には古いロープがありそれに掴まり下る。何度かしりもちをつきそうになったが無事沢の所に出た。かなり急な下りで膝に来たのでしばし休憩。周りを見渡していたらピンク色が目に入った。おっ、何かなと近寄るとハクサンコザクラが咲いている。早速カメラを構える。そして更に上を見ると紫の大輪が…おおっ、シラネアオイではないか、もう時期的に駄目かと思っていた花に出会えて感激!!。誰に採られるわけでもないのに自然に足早になり駆け寄る。この日照りの中結構みずみずしく風に揺れていた。写真を撮り満足して道に戻る途中安心したのか草に足を取られドッシーンと転んでしまった。
芝倉沢はまだ残雪がいっぱいだ。急な山肌から転げてきたのだろう、大きな石が残雪の上にごろごろしている。ひやあ、怖いなあ。落石にあったら大変と上ばっかり見て下っていたらスッテンコロリ。ヒヤッとした雪の感触が気持ちいい。かなり急な下りだ。軽アイゼンが欲しいと感じたが、ストック2本あれば大丈夫だ。ここらあたりはもう落石は大丈夫かなと一安心、しかし今度はぱっくりと口を開けた割れ目…端の方に近寄らないように慎重に歩く。先日谷川岳で雪渓が崩れ事故にあったというニュースを聞いたばかりである。今まさに崩れたというような感じの所もあった。
不安のないところではすいすいと滑るように下る。
そして芝倉沢出合いに無事到着。冷たい雪解け水で顔を洗い喉を潤す。いやあ、冷たい数分と手をつけておれない。
休んでいたら旧道から単独の男性が歩いてきた。「山頂はあれですかねえ、あとどの位?私にも登れますかねえ?」と問われる。「登りなら3時間くらいかかるでしょう。山頂はあれでなくもっと向こうです。雪渓があり結構急ですよ」「えっ、雪渓…あそこを登るんですか?私でも登れますかねえ。大丈夫ですかねえ」としつこく聞かれる。それに今から登ってどこかに泊まるには小さなザックだ。我が輩はその人の山も経験も体力も知らないので大丈夫ですかねえと聞かれてもなんと答えていいかわからない。でも話していると、アイゼンもストックも地図も持ってないとのこと。で、きっぱりと「準備が無いんじゃ危険ですから登れないでしょう。落石や雪渓の踏み抜き、それにコースも不明確なので登らない方がよいです」と答えた。きっぱりと言われたのが功を奏したのか、どうにか登りたいという気持ちが無くなったようだ。もう少し旧道を歩いて引き返しますと蓬峠方面目指して歩いていった。
さあ、あとはもう危険のない林道歩きだ。鼻歌なんか歌いながら歩いていたら3人連れのおばさんに出会った。「もしもし、お兄さんちょっと教えて」「お兄さんって私ですか?」もちろん周りには誰もいないので私はお兄さんなのだとにんまりする(^_^;)
「この道はもっと先ですかねえ」とガイドブックを指さし訪ねられた。旧道から新道へ降りる道が分からなくなったらしい。地図を見るとだいぶ下である。「残念ながら1kmほど行き過ぎみたいですよ。この先旧道に降りるにはだいぶ歩かなきゃ行けないんで引き返した方がいいと思います」と答えた。「いやあ、ありがとう誰にも出会わないんで不安だったんです。まだ上だろうと先に行こうと思ってたんですが…」「じゃあ、一緒に下りましょう」と世間話などしながら一ノ倉沢出合いまでご一緒した。「おかげさまで遭難せずに助かりました。ありがとう」とお礼を述べられ飴玉をもらった。まああそこで遭難はしないだろうがだいぶ心細かったようだ。
一ノ倉沢出合いは沢山の観光客が冷たい水や雪渓で涼を求め楽しんでいた。さ、マチガ沢出合いまでもう少しだがんばろう。ビールをとりだしてみたら飲み頃だった。
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