帰りは温泉、榛名連峰水沢山   1996年3月3日(月)晴れ
 
         上州 榛名山…二ツ岳(雄岳1343m、雌岳),相馬山1410m,水沢山1194m

 山に行こう、どこにしよう?と考えていたら、なんと榛名山域を全く歩いていないことに気が付いた。上毛三山のひとつであり群馬県人としてこりゃあ問題だと反省し、さっそくガイドブックをひもとき「水沢山、二ツ岳」をめざした。
結果としては二ツ岳から見た相馬山に魅せられて、こちらも含めて一気に攻め込み榛名連峰を満喫した一日であった。

登山口…わしの巣風穴…避難小屋…雄岳…雌岳…相馬山…つつじが峰…水沢山…むし湯跡…
  0910            0950    1020  1055 1245-1325  1422   1455-1545  1615
登山口   
1640


 群馬県と埼玉県境を流れる利根川にかかる板東大橋付近から、毎朝通勤時に車中から眺める朝日に輝く榛名連峰は穏やかな風貌を見せる。今の時期は雪で駄目かなあと思っていたが、他の山に登った経験からみて、あの標高なら大丈夫だろうと仙人が岳に登った時に聞いた水沢山をめざす。ついでに手前の二ツ岳も行ってみることとした。

 最初はJRとバス利用で水沢観音側から登ろうと思ったが、バスの便が悪く車とした。水沢観音側から車窓に見える水沢山はかなり急に見える。これなら展望も良さそうだなあと心ははやる。山肌には雪もかなり見える。程なく伊香保温泉を過ぎ、森林公園内の管理事務所に到着。ここでパンフレットをもらう。B4版のかなり詳しくハイキングコースが記されているものだ。コースを確認し、ちょっと離れた二ツ岳登山口の道路脇に車を止める。

 ここからわしの巣風穴を通り避難小屋経由とする。しかし、関東ふれあいの道整備の為か全面通行止めの看板がある。他の道も思い当たらず構わず入る。結果としては通行止めは僅かな距離であったが、何故通行止めなのか分からなかった。たぶん作業中の安全を目的としてのものであろう。道は雪に埋もれ、全く作業している形跡もなく?であった。僅かで風穴に着く。穴の中には「氷、製造中、触らないで」と注意書きのあるビニール袋が数袋あった。自然の冷気で作った氷である。パンパンに凍った氷をちょっと触ってしまった。「厳しい榛名の冬が育んだ天然の氷、おいしいカキ氷だよ〜ん」などと使われるのであろうか?

 栂の樹林の中、雪に埋もれた石段をつづら折りに登る。先行するのは動物の足跡だけだ。気持ちよい雪道だが、登りは結構しんどい。拾った杖が役に立つ。程なく七合目避難小屋に到着。避難小屋というより休憩所といった感じだ。入り口に二ツ岳の説明がある
「榛名の寄生火山であり、爆発物(軽石)は遠く福島県まで飛んでいった。冬の雪景色は二ツ岳の雪として江戸時代より伊香保八景のひとつetc」ふ〜んと感心しザックをデポして雄岳をめざす。わずかでテレビ中継搭のある山頂?に到着。
 広々としたデコボコの山頂でどこが最高点やらと辺りを見回す。うん、あそこ
だなと石祠のある岩場によじ登る。ちょっとした痩せた岩尾根の雰囲気だ。

 到着したときには「何だ、展望はないなあ」と思ってちょっとがっかりしたがこの岩の上はすばらしい展望だ。榛名外輪山もばっちりだ。榛名湖は白く凍り、スケートやワカサギ釣りの光景が見える(双眼鏡で)。赤城、西上州の山々、白根山方面、谷川方面、後で登る水沢山も見える。眼前にはオンマ谷に垂直に切れ落ちた感じの相馬山が絶景である。「登ってみたい……」と思う。展望を満喫したあと、避難小屋に戻り同じような展望を期待し雌岳をめざす。しかし北や東方面の展望はミズナラ等に遮られ全くない。ちょっとがっかりだ。でも赤城、水沢方面の展望はぐ〜んと開けてまずまずだ。

 山頂を後にしザックを取りに避難小屋に戻る。静かだった山間に騒々しい声が聞こえる。小屋付近には中高年(私もそうだが)の15人程のグループが休んでいる。「わしの巣から?」「ええ」「じゃあの足跡はあなただったんですね」…誰も歩いてない雪道の一番乗りの私は満足であった。小屋に入ってみると私の荷物が見あたらない。確かここに置いたんだが??とよく見るとおばさん連中のザックの山に押し潰されて遭難していた。これがオバタリアンパワーかと呆れて避難小屋を後にしオンマ谷方面に降りる。

 雄岳から見た相馬山の雄姿が心を離れず「素晴らしい展望だったなあ」と思いながら歩いていると程なく相馬山との分岐に到着。時計を見る。時間は十分だ。心の中で葛藤する。
 「どうしようか。水沢より面白そうだし…でもあの急登、大丈夫だろうか?足跡も全くないし、あのおばさん達もこっちには来ないだろうなetc」「よし、相馬山に登ろう」と決意する。単独行の気安さだ。思い立ったら吉日、踏み後のない静かな尾根道を辿る。

二ツ岳からみる相馬山は急登で険しい山容に見える。オンマ谷に切れ落ちた爆裂口跡は古代の火山の活発だった頃の凄まじさを思い起こさせる。森林公園という事もあり標識はしっかりしている。迷う心配は先ず無い。それにこの標識の良いところは時間が記されていないことである。距離も書いてないところがある。
(パンフも簡単な記入だけである)相馬山迄1.5〜2時間と見積もる。標準コース時間に惑わされず自分で判断する楽しみがある。

 新雪でない為か、踏み込んだ足を抜くのに力が入る。樹林の中上り下りの尾根歩きの途中から道のわかりにくい所を山肌を横切るように歩く。雰囲気から間違いはなさそうだ。雪がなければ細い道なのであろう。眼前に聳える山容と切れ落ちたオンマ谷の岸壁が見え隠れし、いよいよあの急登かと気持ちを引き締める。程なく石仏のある尾根に出て一休み。先ほどの二ツ岳が右手に見える。先ほどのグループがにぎやかに展望を楽しんでいる光景が目に浮かぶ。

 さあ、いよいよ急登の連続だ。木につかまり、岩につかまり慎重に登る。いやあ、あそこは登れるかなあと心配していたら、岩の間から鎖がちょっぴり顔を覗かせる。よかった〜と胸を撫でおろし、鎖を引っぱり出す。くっついているのか簡単には出てこない。思いっきり引っ張ると雪を跳ね上げ黒々とした鎖が出てきた。跳ね上げた時の雪が体にくっつき雪男のようになってしまった。鎖さえ有れば足場も良く岩に付いた雪を掻き除け順調に登る。無事通過の喜びもつかの間、二つ目の鎖場だ。こちらは雪に埋もれていないが、垂直とも思える足場の少ない一枚岩だ。ここは難所であった。少しの足がかりを求め数回途中で休み、2本の鎖を頼りに慎重に登る。やれやれ、ようやく通過だ。やった〜っ

 もう頂上はすぐそこのように思えるがまだ急登は続く。ここにも鎖が欲しいなあと目前の急登を雪を掻きわけしがみつきながら登っていたら、雪の下から鎖が顔を出した。思わぬ救世主にほっと一安心する。しかし安心してばかりはいられない。気を引き締めて一歩一歩確実にステップを刻む。
 そしていよいよ頂上に到着。ついにやったぞ、と長々とした山頂を見渡すと山頂には沢山の石碑、石像が建っており信仰の山を伺わせる。展望はいまいちかなとちょっと西の方に進むとわずか下がったところに南方面の展望が素晴らしい一角があった。浅間、西上州方面がバッチリだ。榛名湖もぐっと近く見える。こっちが榛名湖方面からの道だなと思いながら、眼前の展望に満足しながら軽い食事とする。一人も出会わない静かな山頂での暖かいコーヒーは格別だ。

 この時間なら水沢山も行けるなと思い山頂に別れをつげ、鎖場を戻る。2つ目の鎖場は下りの方がしんどかった。濡れた手袋を交換し慎重に鎖をホールドし降りる。他は順調過ぎるほどのスピードで何度か転び雪まみれになりながら滑るように下った。雪道の下りは思いのほか時間が稼げる。
 ただし調子に乗ってオンマ谷の方まで一直線という事がないように慎重さが必要だ。僅かで先ほどの石仏に到着。あれほど苦労した登りが嘘のようだ。

 石仏から山肌に入ったところで3人組に遭遇した。「あの足跡はあなたでしたか?、道どうでした?鎖場は大丈夫ですかねえ」「鎖は埋まってたけどどうにか登れました。2本目だけは気をつけた方がいいですよ」と言葉を交わす。心の中で「ああ良かった、先行されてたら鎖の掘り出しや、岩に付いた雪のかき分け等の楽しみが得られなかったな」と一人でニッコリである。相馬山登山口まで戻りこれからはツツジやカラ松の気持ちの良い尾根を緩やかに下る。
 春になればツツジが咲き誇り豪華絢爛であろう「つつじが峰」を過ぎ水沢山方面をめざす。いったん林道に出て1Kmの標示を横目に朽ちた丸太の階段のある道を登る。丸太の所は歩きにくく脇にそれて歩く。程なく防災無線中継局を過ぎ痩せた尾根道歩きとなる。こちら側からは水沢観音方面から見た険しい山容、急登は感じられない。二ツ岳、相馬山を登ってきた割には快適な歩きだ。軽快にステップを刻み僅かで山頂に到着だ

 山頂の標示も無く(誰かが掲げた小さな山名板は控えめに木にくくりつけられていた)3等3角点があるだけの静かな山頂だが展望は申し分ない。20万分の1地図を並べ山座同定だ。谷川連峰、武尊山、日光白根に赤城山、秩父方面の山々、西上州妙義山、浅間山と山名をあげればきりがない。天気も良く最高だ。ビールが無いのが残念だが、暖かいコーヒーと卵スープ、ラーメンがうまい。

 時計を見る。あまりゆっくりはしていられない。名残惜しいが下山とする。帰路は林道まで戻り登山口からむし湯跡をめざす。このむし湯跡は昔吹き出る蒸気を利用して蒸し風呂みたいにしていたらしい。昔は数件が商売していたらしいが、ある日蒸気の噴出が止まり廃業となったらしい。今はその面影はなく炭焼き窯とむし湯跡がひっそりと保存されているだけだ。
 最後は静かな森林公園内のもみじの広場を経由し、わしの巣風穴を経て登山口に到着した。この公園内を歩き回るだけでも春や秋は楽しめそうだ。今度は家族同伴でハイキングでも楽しもうと家で待つたっくんの顔を思い出す(たぶん今頃はゲームでもやってるんだろうな)

 帰りに伊香保温泉「石段の湯」に寄り汗を流す。目を閉じて獅子の口から流れ出る湯の音を聞きながら、展望に恵まれた今日の山行を振り返る。「結構歩いたなあ、雪道は気持ちよかったなあ、あの鎖場はしんどかったなあ、コーヒー美味しかった」と思いはつきない。帰りに名物の「温泉饅頭」を買った。

 これより以降、出勤途中に車窓から眺める榛名連峰が妙に身近に感じられるようになった。ああ、あれに登ったんだなあ。楽しかったと