眼前の浅間山はでっかいぞ 黒斑山(2、414m)   
                       1997年2月1日(土)晴れ


 浅間山の雄姿を眼前に望める黒斑山、特に危険個所もなく雪山入門によい山、天気も比較的安定しており充分楽しめる雪山との文句に惹かれ登ってきました。好天に恵まれかなりのラッセルも強いられたが、それも又雪山の面白さ。山頂からの浅間山は雄大であった。

        車坂峠…赤ゾレの頭…トーミの頭…黒斑山…トーミの頭…車坂峠
         0930    1145     1210    1240-1320  1335    1510


 Tさんご夫婦と18号線横川の釜めし屋で待ち合わせ、心配していた碓氷峠も凍結はなく順調に通過、しかしチェリーパークラインは所々凍結している。先日赤城山でスタッドレスの限界を思い知らされ心配であったがどうにか無事、車坂峠に到着。スキー場からは賑やかな(と言うよりちょっとうるさい)音楽が流れている。トレースがあるか心配であったが数日前に歩いた様な後があり一安心。天気は良く風もない。素晴らしい雪山が堪能できそうだ。期待に胸膨らませ、さあ、頑張って登ろうと元気に出発。

 しかしその意気込みも僅かで不安に変わる。トレースは数mも行かないうちに無くなりルートが分からない。僅かに現れていた登山道と思われるロープにたどり着こうにも雪が深くたどり着けない。うろうろと雪の少ないところをめざし進むがズボッズボッと股下以上にもぐり閉口する。どうにか登山道を示すテープでルートは分かったが雪は深い。もう駄目だとMさんがワカンをはめる。効果は抜群。スイスイと進む。少しして私もワカンを着ける。よしよし、これで大丈夫だ。しかしTさん夫婦は苦戦している。登山開始時は笑っていた顔がちょっとこわばっている。ワカンの後をトレースしても歩けないくらいもぐり、もう駄目かなあ、先に行ってください。ゆっくり行くからと……そうはいえども先に行くわけには行かない。雪が少なく、堅そうでもぐりにくいルートを探しゆっくり進む。

 今日はこの積雪では先が思いやられそうだなあと思っていたが、暫くすると樹林帯の中では雪も少なくなり、僅かながら登山道を示すトレースらしきものがある。雪の多かったのは下の方だけだったようだ。それも吹き溜まりが特に多い。車坂山のピーク辺りでは割と順調な歩きとなってきて後ろを振り返り景色を楽しむ余裕も出てきた。可愛いコガラがチッチッチと出迎えてくれる。車坂山からの下りは結構急であったが無事通過、しかしちょっとルートが不明になり地図で確認。少し回り道をしたが尾根コースとなり針葉樹林の中を快適に登る。

 少しは歩きやすいかとTさん達はアイゼンをつける。途中展望の良い石の多いところでひと休み。ここで数組が追いついてきた。単独行の人から「トレースしてくれてありがとう」とお礼の言葉をもらい嬉しかった。そして数組が私たちより先に進む。「ああ、これでラッセルから解放された」とほっとする。ツガやシラビソについた樹氷が綺麗だ。風に揺られキラキラとした粉雪が舞う。時々首筋に冷たい雪が枝より落ちてきてヒヤっと冷たい。

 そしてちょっとした急登の後、かまぼこ型の避難小屋(火山爆発時の避難用シェルターでドアは無し)の立つ赤ゾレの頭に到着。振り返れば水ノ塔、籠ノ登山がよく見える。「いやあ、素晴らしい景色だなあ。明日が楽しみだなあ」とMさんと明日の山行に胸を膨らませるが、日帰りのTさん達はうらやましいのか「明日、天気はどうかなあ」等とちょっと悔しそうだ。「一緒に温泉泊まろうよ、下山後の熱燗は最高ですよ」などと漫才が楽しい。少し進むと、浅間山の雄姿が初めて顔を表す。でっかいなあ…としばし感動。足元はググッと切れ落ちている。

 これから一旦下り、そしてトーミの頭めざして再度急登。かなりしんどいがもう少しだと頑張る。石のゴロゴロとしたところはワカンではちょっと歩きにくい。慎重に登る。そして仙人ガ岳から鋸、Jバンド、そしてドドーンと浅間山が望めるトーミの頭に到着。いやあ、絶景だ!!奥さんが「30年くらい前に登ったときと変わっていないわ」と遠い?昔を思い出す。「エッ、30年前、何歳の時登ったの?」何て失礼なことは誰も聞かない。山は何十年、何百年も変わらないけど人間ってすぐに年をとるんだなあ、後何年くらい登れるかなあと思いに耽る。

 ここらで先行していた数組を追い抜きまたラッセルを楽しむ。さあ、後少しと元気を振り絞り山頂をめざす。途中ちょっと右側が切れ落ちたところで緊張する。山頂手前で、トレースのない雪道歩きは最高ですよと奥さんにトップを譲る。そして遂に山頂に到着。西側は樹林帯で展望を遮られているが、誰も居ない山頂は実に気持ちよい。浅間山って大きいなあと改めて感じる。Tさんご夫婦が仲良く昼食の準備、私は冷えたビールで1人乾杯。Mさんとご夫婦は厳しい雪山ではアルコールはちょっと…と持参しなかったようだ。さあ、出来たよとおいしいウインナーと卵入り丸てんぷら?を頂く。暖かくておいしい。今年の初日の出山行時のビニール入りうどんが話題になる。今回は大丈夫そうだ。

 さあ、腹も一杯になったし、展望も満喫したし下山開始とする。稜線ではちょっとした風でもかなり寒い。下りは快適だ。あの登りでの苦労が嘘のようである。帰路は数組が歩いたのでトレースはばっちり。でも少し横にそれるとズボズボっと股下までもぐる。それも又楽しい。時々ワザと深みに入り喜んでいる私と奥さん。山肌を転がる雪玉を見てはまたはしゃぐ。楽しい山歩きである。車坂山を過ぎると賑やかな音楽が聞こえてきた。もう後は少し、ちょっと余裕が出て来たのか、みんなで雪原に寝っころがりしばし休憩。「ああ、気持ちいい」最高の気分。

 そして無事登山口に到着。登りはじめはトレースもなくルートも分からず不安混じりであったが、終わって見れば満足感でいっぱいの山行であった。私とMさんは泊まりのため山荘にチェックイン。「熱燗は最高だよ。温泉は気持ちよいよ。明日はあの素晴らしい景観の籠ノ登山が待ってるよ」との悪魔のささやきにも負けず帰り支度のTさんご夫婦を山荘の暖かい部屋の窓から見送った。寄せ鍋の温かい夕食とコタツに入って嗜んだ水割りに満足して一日が終わった