好展望に絶句、上州 十二ガ岳
今年初めての山歩き候補であったが、寝坊のため観音山にその栄誉を譲りはしたものの、新しい靴の履き初めとしてその栄誉を受けたのは、雪に覆われた神々しい上信越国境の展望が素晴らしい十二ガ岳、小野子山であった。
ところどころアイゼンがあれば……と思わせる凍りついた急登もあり緊張したが、特に靴擦れも無く、晴れ無風、文句無しの好展望、程良い積雪量と満足した山行であった。
【登山日】 1996年1月14日(日) 晴、無風
【山 名】 十二ガ岳山 (1,201m) 上越
【同行者】 酒呑童子、弘子
【行 程】 登山口駐車場…見透し台…十二ガ岳…見透し台…駐車場
0910 1015 1100-1250 1325 1410
【地 図】 群馬県の山、群馬の山歩き130選
先日の嵩山登山のおり、JR吾妻線小野上駅付近から眺めた「上州の低山の中でも屈指の展望台、特に残雪や新雪の頃の上信越国境の銀嶺は素晴らしい」…群馬の山歩き130選より…といわれる十二ガ岳に来年(96年)は登ってみようと思っていたが、その機会は早くもやってきた。しかも新しい靴に心も浮き浮きである。
昨日の朝寝坊を反省し、早寝早起きで7時過ぎに出発。今日は久しぶりに弘子と一緒である。今の時期、運が悪いと国道17号線はスキー客で大混雑する。今日もラジオでは関越沼田辺りでは渋滞と言っている。関越を諦めた回避組で17号線もかなり混み合っている。しかし、私たちは手前の渋川から中之条方面に行くので一応渋滞の雰囲気はちょっと味わっただけで抜けられた。一安心である。
しかし、弁当を買おうと寄ったコンビニでスキー客?の影響を受けた。なんと、おにぎり他弁当は売り切れで全くないのである。どうにか反対車線の別の店で購入したが、選択の余地はあまりない。とにかくあるものを買うといった感じである。
どうにか朝昼の食料を仕込み小野上駅の先から林道に入り、採石場を過ぎ「結婚の森」の案内板の所に到着した。林道はもう少し上まである。少し距離を稼ごうと車を進めたが、凍った路面には勝てず滑って動きが取れなくなってしまった。前進ならずUターンも出来ず200m程ゆっくりゆっくりバックしてようやく路側に駐車することが出来た。お陰で首が回らなくなってしまった。いやあ怖かった。
登山口の標示を確認し雪道に一歩を踏み出した。林道側の水場を過ぎ20分も歩いたろうか林道終点でこれからいよいよ登山道である。標示板の立木に数本の木が立てかけてある。反対ルートで降りてきた人達がここで愛用した杖を置いていくのであろう。その中で具合の良さそうなのを手に取り登り始める。雪山は初めての弘子が先頭である。割と早く歩いている。こっちの方が疲れそうだ。ゆっくりペースで行こうと声を掛ける。ルートは沢山の踏み跡と動物の足跡ではっきりしており問題はない。サクッサクッと気持ちよい。風もなく暑いくらいだ。途中でセーターを脱ぐ。
積雪は15cmくらいでこの辺りは凍っているという感じではない。ヒノキや雑木の間から漏れてくる弱い日差しを受け一歩一歩登る。太陽は雲の間を出たり入ったりでどうもしっくりしない。木々の間から冠雪した山々が見える。頂上からの展望が待ち遠しい。1時間ほどで見透し台といわれる岩の展望台に到着。榛名、浅間方面の景色が素晴らしい。ここから今日初めての下りである。それもつかの間割と急な登りとなる。しかし、こちらの面は日当たりがよいのか雪の無いところも多い。しかし土は凍ってるところが多く緊張するが、まあ転倒しても転落などの危険性のあるところはなくペースを落とし慎重に歩く。
雪のあるところは20cm位になってきた。標高が高くなるに連れ凍結している頻度が多くなり、特に山頂手前の急登では弘子の足が止まってしまった。怖いと言い出す。ルートを外し踏み跡のないところを木々に掴まり登る。凍ったところよりこちらの方が登りやすい。右の崖寄りに万一転倒したりしたら大変だ。ゆっくりゆっくり登る。焦ることはない、頂上はもう直ぐそこだ。
で、無事に山頂到着。眼に飛び込んできた360度の展望にしばし絶句(ちょっとオーバーかな)ザックを下ろすのも忘れ見入ってしまう。榛名方面は勿論、浅間、四阿山、草津白根、谷川連峰、武尊、日光白根、男体山、遠く八ヶ岳も見える。そして見慣れた赤城……とにかく素晴らしい展望だ。谷川連峰は積雪量が一番多いのか、他に比べて太陽の光を思いのままに受け入れ神々しく輝いて見える。暫く二人で感激をかみしめていたら、女坂方向から単独行の男性。着くなり「いやあ、素晴らしい展望ですね、うん、今日は最高だ」と感激している。この単独行氏、昨年の山行目標30回のところ、26回達成したとのこと。「えっ、そうなんですか、私も26回なんですよ」と、あっちの山が何々、こっちの山が…、この前登った山は…と話も弾む。
今日の予定では、中ノ岳から小野子山の往復と思っていたが、東方向に見える小野子山を見てもここより好展望とは思われず、ここで打ち切りとし昼食とする。全くの無風であり、お日様も出てきた。ぽかぽか日和である。う〜ん、最高。
その後二組の夫婦が登ってきた。やはり好展望に満足の様子だ。これで7人となった。皆以前からの知り合いのように山々を眺め、和気藹々と過ごしている。これも好展望が取り持つ縁であろうか。ふと皆の足元を見ると私たち以外アイゼンを装着している。単独行氏いわく「よくアイゼン無しで登ってきましたね」私「ええ、ちょっと厳しいとこありましたけど、どうにか…」と口ごもる。私たちはアイゼンは持っていないのであった。便利そうだなあ、購入しようかなあと心をよぎる。
皆のんびりとくつろいでいる。風でもあったらこうはいかないだろうが、今日は無風、晴れ。夫婦の1人が帰り間際に言った「なんか降りるのがもったいないわね」皆うん、うんとうなずく。しかしいつかは降りなければならない。何と着いてから約2時間も過ぎている。よし、山頂に別れを告げ下山開始。
先程のオジサン、アイゼンの威力を十分発揮し、登りで私たちが苦労したところをスイスイと降りていく。私たちは相変わらず立木に掴まり、杖を駆使し必死の形相で慎重に降りる。やはり持つべきものは道具であろうか。なんとステッキを持ってなかったのも私たちだけであった。(拾った木の杖は持っていたが……)
しかし、緊張したのは僅かの部分であり、後は楽しい雪道歩きコースであった。途中では1m位の立木に小さな鳥の巣を見つけた。また来年この巣に新しい命が育つのであろうか。登山口では行程を共にした杖を元の場所に戻した。また別の登山者が同じように使って登るであろう。見かけは悪いが、結構役に立っているんだなと感心する。
途中の水場でのどを潤す。何となく甘くて柔らかい感じがする。おいしい。水筒に汲み持って帰る。この山行報告を書きながら水割りに舌鼓をうつ。至福のひとときである。
