足尾 備前楯山(1,272m)              1997年1月19日(日)晴れ

 久しぶりにのんびりした山行を楽しもうと以前から気になっていた足尾の備前楯山に行って来ました。雪も少なく僅かで登れる山頂からは足尾精錬所や日光方面の山々の荒涼とした風景に驚きながらも眼前に広がるパノラマ風景に満足した一日でした。

【行 程】  舟石峠登山口…備前楯山山頂…登山口…松木沢渓谷
        1020       1105-1200    1225


 昨年、日光中禅寺湖南面の半月山、社山等を歩いたが、その時目にした足尾の山々の荒れ果てた山容には驚きの一語であった。精錬所の後ろに控える備前楯山や松木沢渓谷は一度は歩いてみたい所であった。その機会がようやくやってきた。かじか荘から袈裟丸方面に向かう道を右に折れ所々凍結や落石の散らばる林道を慎重に走る。秋は紅葉が綺麗らしい、しかし今は冬、木々は葉を落としている。ときどき鳥の声が聞こえる。

 そして鳥獣観察所という所に到着。バードウオッチングでも楽しもうと30分ほど寄り道をする。カケス、コガラ、モズ(?)等が見れたが、獣の方は現れなかった。そこから僅かで登山口に到着。駐車場には数台の車。それに数人の男達。腰には鉈をぶら下げている。そして遠くの山肌を指さして何かしゃべっている。と、突然山の中からけたたましい犬の声。そうか、猟師なのでは……やばいなあ、ここって狩猟禁止区域じゃ無いのかなあ。ちょっと不安になる。

 登山道には10〜15cmくらいの積雪だ。しかしトレースはバッチリで問題ない。アイゼンも不要だ。足尾の禿げ山の印象とは違って松や雑木林の尾根歩きは気持ちよい。天気も良いし風もない。時々聞こえる鳥の声、コガラだ。立ち止まり眺めていると頭上でトントントンとリズミカルな音。見上げると僅かの距離でコゲラがドラミングだ。しばし眺める。いいなあ、木漏れ日浴びてのゆったりした気分での歩き。前方より一人のおじさんが下ってきた。「コンニチワ」って挨拶し、ふと見ると背中には鉄砲を背負っている。やば〜、心の中で「間違って撃たないでね」と祈り「何が獲れるんですか?」て聞いたが「まだ何も…さっき犬が何か追っていったようだけどね」だって……狩猟犬って人には吠えないように訓練されてるのかなあ、心配が胸をよぎる。

 そんな心配もあったが、気持ちよい雪道歩きもそこそこで急な登りもなく僅かで山頂に到着。ど〜んと広がる大パノラマだ。雪の少ない男体山、その後ろに見えるのは大真名子、小真名子かなあ、前方には半月山、社山、黒檜の稜線が見事だ。皇海山はちょっぴり顔を覗かせる。庚申山から袈裟丸連峰もバッチリだ。富士山はちょっと靄の中だがどうにか見える。薬師岳、地蔵岳方面が登行欲をそそる。
 しかし、景色はよいが、無惨に荒廃した山肌はちょっと異様な雰囲気だ。登ってきた道は樹林帯でしばし足尾の山ってことを忘れさせてくれたが、眼前に広がるこの山の風景こそ足尾の歴史を物語っている。銅山のもたらした恩恵も多大なものであったろうと思うが、自然破壊への影響も忘れてはならない。一度死にかけた山を復活させるには気の遠くなりそうな取り組み、年月が必要である。

 自然の大切さを思って感傷に浸り風もなく暖かい山頂でビールをグイッっとやっていると二人連れが登ってきた。見ると荷物はカメラだけ、靴は普通の靴、服も殆ど普段着である。私は結構しっかりした冬山装備……いくら気軽に登れるとはいえちょっとそのギャップに言葉もなかった。

 ゆっくりと食事を終え下山開始、下りはすこぶる快調。途中3世代の家族連れと出会う。おじいさんが孫の手を取って嬉しそうに登っている。もう少しですよって励ます。そして僅かで登山口に到着。幸い間違って撃たれることもなく早い時間に下山できたので、山頂から眺めた赤倉の集落、精錬所、松木沢渓谷を散策しようと銀山平と反対方向に車を走らせる。途中銅山跡の建築物や石垣、が目を楽しませてくれる。こちら側から見る備前楯山はやはり足尾の山だ。

 赤倉広場から精錬所、そして足尾砂防ダム、そして松木渓谷。左右の山々の荒れ果てた姿、砂防のための土留め跡、植裁された僅かな緑…なんか異様な風景にちょっと変な気分だ。ガイドブックによると「日本のグランドキャニオン」「栃木景勝100選」と記されている。山頂から感じた以上に荒涼とした風景。治山事業の大変さを改めて感じた。植裁された僅かばかりの緑に真っ赤な顔をした猿が数匹散歩をしていた。