凄い藪こぎ、道に迷った鼻曲山(1,655m)   2001年5月26日(土)晴れ

のんびりふぁみりーハイクのはずが…


霧積館にかかる暖簾

久しぶりにファミリーでのんびり温泉泊まりで山歩きでもと、森村誠一氏の「人間の証明」で有名な山奥の秘境、霧積館に行こうと言うことになった。めざすは鼻曲山。しかし、楽しいはずのファミリーハイクが一転して…

【メンバー 】 酒呑童子、妻、たっくん
【行 程】  霧積館…馬頭観音…鼻曲峠…山頂…鼻曲峠…留父山…美ノ平…霧積館
        0940    1030       1230-1405       1530        1850
【地 図】 1/25,000図 軽井沢


霧積館 この山は思い出の山である。しかしそれは知らない方がよいだろう。それは私だけが知っている(^_^;)
登山口の霧積館、水車の回る山間の宿は、郷愁をそそる。秋の紅葉時期に家族で来ようと思ったが、予約が取れず今日になった次第である。
 今晩はここに泊まるんだよと期待を胸に膨らませて山頂をめざした。さわやかな新緑と、うるさいほどの小鳥の声に足取りは軽い。



角落山への分岐マイヅルソウツツジは咲いてるかな…まだちょっと早いようだ。角落山への分岐までは割となだらかな道が続く。久しぶりの妻や子も今のところ足取りは軽い。
マイズルソウの可憐な花が目を楽しませてくれる。

 途中、たっくんが一人の登山者をちらっと見てなにやらうれしそうな顔だ。そのうち妻もそれに気づいた。どうも中学校時代の校長先生のようだ。もうリタイヤしているがこんな所で会うのは奇遇だねえ。本当に先生だろうかと息子は気がかりでしょうがないようである。
妻と二人で、先に進んで休憩しているおじいさんの横顔をチラリチラリ…
 二人して「間違いない!!先生だ」という結論に達した。挨拶したらと言ったが、あまり気乗りしないようであり先に進む。しかしたっくんはその後も先生が気になってしょうがないようである。中学校時代に何か怒られるような思い出があったんじゃないなどと和やかに話しながら山頂をめざす。

もう少しかなあ。結構な急登 そしてなだらかな登りも終わり、いよいよ急登となる。木の根っこや枝に掴まりながら登る。下りの苦手な妻はもう帰りのことを心配している。
山頂直下はザラザラとした火山特有の滑りやすい登山道。人気の山であり沢山の人達が登っていることから、非常に歩きにくい。うっかりしていると登った以上にずるっと滑り落ちそうな感じだ。
そして最後の登りにくい道を一気に詰め大天狗に到着。沢山の人で座るところもないので浅間山の見えるを小天狗まで進む。こちらの方が標高は低いが三角点のある山頂である。展望もこちらの方がよい。しかし今日はモヤッとした天気で眼前にそびえる浅間山の勇姿もそれほどの感動を生まない。
 それに山頂の広場には小学生の集団登山で賑やかなこと。うわあ、勘弁してくれ〜
景色を楽しむのも程々に、長日向方面へ少し下り登山道の脇で休む。

 お気に入りのウインナーを炒めビールで乾杯!!いやあ、旨い。やはりたまに家族での山歩きもいいもんだと満足満足。そのうち小学生の集団が下山を開始した。ウインナーを炒める光景を見て小学生たちが「うわっ、おいしそう!!」と通りすがりに声をかける。長い列が途切れるまでその声が続く。そして最後尾の引率の先生、ビールが飲みたそうな顔で通り過ぎていった。食後はハーモニカを吹いてリラックス、たっくんは静かになった山頂でおひるねタイムです。

山頂にて さて下ろうか、下山は「え〜と、予定ではあっちの尾根だな」と確認する。ちょっと上り下りがあってきつそうだが、まあそんなに時間もかからないだろう。近道をすれば4時か5時には宿でのんびりビールでも飲んでるだろう…
これが間違いの始まりだった。
 いったん大天狗まで戻り記念撮影。このときはまだ皆元気が良い。難なく下れるだろう。ザレた急な道を滑りながら下る。かなり急な道で妻はストックを慎重に使いながらゆっくりゆっくり下る。たっくんは元気に下る。霧積温泉への分岐でこれなら留父山経由で問題ないだろうと判断。ちょっとしんどいがいくつかの上り下りが続く。

 このとき時間の確認と、ファミリーが久しぶりの山歩きだということが我が輩の頭からちょっと薄れていた。いつものペースト違う。それは当然だろう、自分のペースで歩いていたので、自然と家族に疲れがたまってきていたんだろう。徐々にペースが落ちる。「ま〜だ〜、戻った方がいいんじゃない」と何度か声がかかる。しかしここまで来て戻るのも大変だし、そのまま進むことにした。
 留父山から急な下りで、そのうち緩やかになる。予定では1350mあたりの波線から北東の方に進み、1,425mあたりにでてそこからいったん林道経由で、自然遊歩道で霧積温泉にでる予定であった。

 しかし、左に行く道が見あたらない。以前歩いたときもちょっと迷ったが、踏み後を見つけ通ったのでまず間違いは無かろうと途中からこちらだろうと進む。もちろんGPSと磁石をばっちりセットしているので不安はない。こっちだよと不安がる二人を誘導し道無き道を進む。そのうち道にでるだろうとの期待をもって…

 しかし道はない。それらしく見えるのはどうも獣道のようだ。その証拠に大きな糞が落ちている。それを見た二人が「熊がでるんじゃない、戻ろうよ〜、道わからないんじゃない…」と次第に不安が沸き上がってきたようだ。「大丈夫、大丈夫。前にも歩いたんだから…」とこれから戻ったんではとても宿にはたどり着けそうもないので先に進む。

 たぶんこっちだったなあと進む。妻に疲れが見え始めたのでザックをたっくんに持ってもらう。高校一年の息子も頼りになるなと思いながら歩く。1,450m付近からいったん南へトラバース気味に山肌を巻き1,425mの地点にでる予定であった。しかし現実には1,550mあたりの岩尾根にでてしまった。時々GPSも木々に邪魔されて信号が受信できなくなる。それにこっちだなとの思いであまり地図も確認しなかったことと、不安がる二人を心配させてはとの焦りからいつの間にか道を(といっても道はないが)それてしまったようだ。今までは歩きやすい雑木林だったが、次第に密度が濃くなって歩きにくくなってきた。ツツジが咲いているがもう楽しむ余裕はない。一人ならどうということもないが、たっくんも「遭難するんじゃない?熊におそわれるんじゃない?山で泊まるのはいやだ。戻ろうよ」と心配が極限に達したようだ。妻のペースも遅れ気味、たっくんも足取りがおかしくなり、ちょっとしたところで転びそうになる。

道はどっち?
最初はこんな感じだったんだけど次第に道がなくなった。そして藪へと突入

 何かやばい感じ。我が輩もちょっと焦り気味になるがここは落ち着かなくては…
もう少し歩いて林道が見えればどうにかなる。もう戻るのも不可能な位に藪に深入りしている。万一の場合は戻るよりここらでビバーグの方が安全だろうと思ったが、まだ時間も早いので二人を励まし岩尾根を進む。そのうち、背丈の倍はあろうかという位の笹藪となる。視界はほとんどない。1m後ろにいるはずの二人の姿も見えない。しかしいることは確かだ。お互い声をかけながら確認して進む。進むと言っても藪をかき分けながら急坂を滑るように進むのだから一向に先が見えない。股の間に笹が入り足が抜けなくなる。大丈夫かと後ろを確認しながら励ます。もう二人とも泣きそうな顔になっている。

 次第に時間が経過して、もう予定の5時までに宿に着かないのは確実になった。このままでは宿も心配するだろうと思い連絡を入れようと思ったが、なんと電話番号を持ってないのに気がついた。どうしよう…本当にこのままではやばい。いろいろなことが頭を駆けめぐる。車は宿の前に止めているので、予約している客が夜中になってもつかないんでは不安になって警察に連絡したりしないだろうか。このままここで泊まることになるんだろうか?明日は休みだから我が輩は大丈夫だ、二人はこの不安に一晩耐えられるだろうか…不安はつきない。

 そうだ、家には娘がいる。登山予定や電話番号をメモしているのでそれを見てもらおうと思いついた。しかし電話がうまく通じない。急な下りの所に一本の倒木が横たわっていた。藪をかき分けそれに登り電話をしてみた。すると通じたのだ。娘に事情を話し、電話番号を教えてもらう。万一今日宿に着かなくても心配しなくていいからねと伝えたが、娘はピンとこないようだった。こんな藪の中で彷徨しているとは夢にも思っていないんだろうな。倒木に登ったことで視界が開けたため眼下遠くに林道が少し見えた。やった〜、あそこまで行ければ大丈夫そうだ。早速朗報を二人に伝える。「道が見えたぞ〜、もう大丈夫だ!!」と

宿のランプ
 さて宿に電話しよう。うまくつながってくれと祈るような気持ちである。
 
 「はい、霧積館です」「あのう、今日予約しているものですが、道に迷って少し遅れます」「どこらへんですか?」「たぶん1,425mと地図に表示のある所の近くです。林道が下に見えるので大丈夫とは思います」と伝える。「留父からそのあたりの道は、いったん迷うとわからなくなりますから気をつけて降りて下さいね。磁石やライトはありますか?」「はい、あります、では」と電話を切る。

 林道が見えて一安心だ。しかしまだ笹藪の急な下りは続く。ここで気を緩めてはいけない。しっかりと磁石をセットして慎重に下る。この藪ではGPSは役に立たない。やはり磁石は必要だなと痛感する。尾根をはずれるとちょっとだだっ広い山肌となる。雑木と低木、笹の混ざった本当に歩きにくい所だ。方向感覚もついつい狂いそうになる。そして次第に笹が無くなり、沢へと下るようになった。道に迷ったときに沢を下るのは厳禁だとの思いが頭をよぎる。しかしこのまま下れば林道にぶつかるのは間違いないと思われる。二人にそこで待つように言って一人で偵察に下る。沢は緩やかになり、ついに林道にでた。「お〜い、道にでたよ〜」と大きな声で伝え迎えに登り返す。

 ここまでくればもう大丈夫。旧軽井沢方面への自然遊歩道を反対に向かい、すぐに林道は終わり、霧積温泉へと向かった。

やっとありついた夕食 「遅くなりました」「いやあ、心配してました。どこで迷われたんですか?」「たぶんこのあたりを降りてきたようです」「以前にもこのあたり迷った人いたんですよ。最近の地図にはこの道は載ってないんですけど…熊もいますし、ほとんど道もないですからねえ。いやあ、無事で良かった」。気がつくとみんなのザックや頭には笹や木の葉っぱ、それに転んだときの汚れなどが一杯付いている。宿の人達もその姿を見て「いやあ、良かった良かった」と声をかけてくれた。

 「さあ、まずはお風呂をどうぞ、食事は何時にしましょう?」と温かいもてなしと無事たどり着いたとの安心感から胸が詰まる思いだった。

 たっくんはもう二度と一緒に山には行かないと少しすねている。しかし温泉とおいしい食事には満足してくれたようだ。山に迷ったりしなければさらに楽しい家族の思い出となっただろうが、我が輩にはちょっと苦い思い出となった。  あんな藪は今までの山歩きで経験したこともないほどだった。今度から家族と歩くときは無理をしないようにしようと深く反省した次第である。でもあの逆境で無事宿に辿りついたのは、お互い励まし助け合いながらの成果だったろうと思う。家族の絆も深くなったと思うのは我が輩だけであろうか。

 今宵のビールは最高だ。内緒だけどたっくんもビールがおいしそうだった。緊張が緩んで早々と寝てしまった。

めがね橋翌日はのんびりと宿を出発し、旧JRのめがね橋を見物した。また、たまには山に行こうねって言ったが、誰も返事はしなかった(^_^;)
少し冷却期間が必要なようだ。反省