あこがれのジャンダルム  西穂から奥穂、北穂へ縦走(その2)  
2001年7月25日(水)〜26日(木)晴れ

奥穂高岳から望む北穂高方面
 おっ、ヘルメットを持った数人がいるぞ。ザックにくくりつけており、被っている人はいない。、これを見て。なるほどやはり持ってこなくて良かったと思った次第である(どれだけ危険回避に備えるかという個人の問題であり、私個人としては持ってこなくても良かったと言うことであり、縦走に不要と言う事ではありません。小さな落石や万一の転落、転倒の場合にあった方が有効なことは言うまでもないでしょう)。

 さあ、いよいよスラブ状の岩壁の登りだ。先行する二人をまずはじっくり観察する。確かに岩は脆そうだが、鎖もしっかりしており、ガイドブックに書かれているほど危険な感じもしない。以外とあっさり登ってしまった。ちょっと物足りない感じだ。ガラガラの岩が多い天狗岳に到着。やったね。槍ケ岳がどんどん大きく見えてくる。笠が岳方面はちょっと雲が多くなってきたようだ。しかしまだまだ青空。風もほとんどない。

西穂側からみたジャンダルム まだまだ前方をみると厳しい岩綾歩きが待ちかまえている。ガイドブックによるとここらで天気をよく確認し、やばそうだったら天狗のコルから岳沢へのエスケープコースをとろうと記されている。今日はその心配はなさそうだ。いったんあれた岩壁の鎖場を下りコルを確認してコブ尾根の頭迄一気に登る。かなりの標高差の気の抜けない急登だ。一汗もふた汗もかいてようやくコブに到着。眼前には憧れのジャンダルムが待ち受けている。しかし、こちら側から眺めるジャンダルムはちょっと拍子抜けする感じの何の変哲もない岩山だ。かろうじて荒れた岩礫がジャンダルムの威厳を保っているようだ。

 コブで3人グループがどこから登ろうかと思案しながら休んでいた。さてどこから登ろうかとコースを目で追うと何カ所か上れそうなコースが目についた。さっそくとりついて登る。右にルートがあったが左手にコースをとる。後ろにはS氏が来ているので落石を起こさないように慎重に登る。わずかの緊張で念願のジャンダルム山頂にたつことができた。S氏と安全に登頂できたことを祝う。前方をみると奥穂高岳へのナイフエッジの岩綾が、こっちも楽しい歩きだよって手招きしている。いやあ、凄い。あんなガラガラとした岩綾を無事登ることができるんだろうかと、改めて不安がわき上がってきた。単独行氏が一番緊張したという馬の背はどこだろうとと探す。どこも同じように厳しさが漂う岩綾だ。

穂高岳山荘を望む さて奥穂高岳をめざそうとS氏と下山開始する。先ほどの3人組が登ってきている。短い時間だが下りは緊張する。どちらから巻けばいいの道を探すがわかりにくい。飛騨側の方へ巻いてみたらとても行けそうもない。落ちたら真っ逆様に奈落の底だ。そうか、登りの時右にルートがあったのがそうかもしれないなと言ってみることにした。正解だ。トラバースするように巻いてジャンダルムの基部を無事通過した。振り返ると巨大な岩峰がそびえ立っている。やはりジャンダルムは奥穂高側からの眺めが最高だ。これでこそ思い焦がれたジャンダルムの姿だ。

馬の背を登るS氏  ロバの耳の鎖場を慎重に下りいよいよ馬の背だ。見るからに険しそうなナイフエッジの岩綾だ。両側がすっぱり切れ落ちており距離はわずかだが高度感は最高だ。慎重に、慎重に…無事登り切った。爽快感が漂う。さあ、奥穂高まではもう少しだ。もう一度振り返りジャンダルムの爽快な山容を目に焼き付ける。そして奥穂高岳山頂到着。「やった〜」と思わず声に出して叫んでいた。S氏と「いやあ、やったね」と言葉を交わす。一緒に歩いてきたものだけが共有できるこの喜び、感動をお互い、笑顔いっぱいに表す。終わった…

 そしてもう一度、一人静かにジャンダルムを振り返る「………」

涸沢を望む この頃はもう槍ケ岳方面はガスがかかったり消えたりしていた。もうここからは一般縦走コース、ルンルン気分で最後の鎖や梯子の急降下で穂高岳山荘に到着した。山荘前ではたくさんの人がくつろいでいた。ここから眺める涸沢の残雪と前穂高方面の緑の山肌が何ともいえない光景だ。いいなあ…さて、どうしよう…予定より大夫早く到着した。予定では白出沢コースで下る予定であったが、南岳経由もいいなあ。途中S氏から教えてもらった南岳新道を下るにはこのまま一気に北穂高まで言った方が良さそうだ。

 

 北穂高小屋は一度は泊まってみたいと思っていた小屋だ。それは、穂高に生きた山小屋の主人、小山義治氏の「穂高を愛して二十年」を読んで感動した「長さ18尺、重さ35貫」という梁を担ぎ上げたという執念。それから山頂でレコードを聴きたいとの執念で実現した標高3100mでの音楽会の余韻を小屋で感じてみたかったからだ。
よし、北穂高迄行こうと決定した。少し遅れて到着したS氏はここで今日の行程は終わりとのこと。「じゃあ、またどこかの山であいましょう」と別れを告げ歩き始める。ちょっと休みすぎたためか涸沢岳へのわずかの登りでも足が重かった。

 涸沢岳からの下りは、岩も脆く鎖や梯子が続く。ジャンダルムを越えてほっと一安心した後では、もうこんな岩場はいやだ〜と叫びたくなるほどの厳しい下りだ。幸いほかに登山者が見あたらず落石の恐怖から解放されて少し緊張がゆるんだ。緊張感が続いて心も体もほとほと疲れていたが、厳しい下りが終わり縦走路に咲くシロツメクサや黄色い花が安らぎを与えてくれる。そしてドームの右手を巻いて南綾との分岐を過ぎ最後のひと登りを頑張って北穂高岳山頂到着。そしてほんの数分でようやく、本当にようやく小屋にたどり着いた。いやあ、頑張った!!さあ、まずはビールだあ。缶ビール700円。一気に飲み干す。うまい!!

北穂高小屋の梁 焦っていたため気づかなかったが、ジョッキでの生ビールもあったようだ。残念。小屋は平日のためか割とゆったりしていた。さっそく、小屋の女性に「担いで登ったという梁はどれですか?」と訪ねる。「これです。当時のものより長さを1mほど短くしましたけど…」と案内してもらった。感動!!よくもこんなのを担いで登ってきたなあとその執念に声も出なかった。




北穂高より槍ケ岳を望む 夕方になるにつれガスがどんどんと濃くなって夕焼けへの期待は完全にたたれた。明日は晴れるでしょうかねえと同宿の人と語り合ううちにうとうとと眠くなり寝てしまった。
朝です。隣のご夫婦が「いい天気ですよ〜。槍も見えます」と教えてくれた。早速外にでて眺める。ちょっと雲があるなあ、日の出はどうでしょう…と山頂ではたくさんの人が期待を寄せていた。そして空が少しずつ明るくなり4時55分太陽が顔を出した。そこここから歓声が上がる。シャッターの音が鳴り響く。手を合わせ何かを祈ってる人もいる。太陽が上がり始めても大部分の人はその場を立ち去りがたく、朝の荘厳な景色を堪能していた。「朝御飯の準備できてますよ〜」と小屋の人が呼びに来た。

 食卓には窓から指す朝日が輝いており眩しいくらいだ。そして心地よい音楽が流れる。北穂高名物?の音楽だ。最初はレコードだったが時代の流れに乗って今はCDに変わったそうだ。しかし食事は夕食もそうだったがあまり美味しくなかった。まあ、3000mの高さで食べれるだけでもましかと思うことにした。

飛騨泣きかキレットへ さて、出発しよう。さっそく飛騨泣きへの急な下りを下る。そして長谷川キレットだ。以前縦走したときはガスってて周りの光景も余りよくわからなかったがね今日はばっちり見える。狭い稜線、聳える岩峰…いいなあ!!
滝谷の方ではしきりにヘリコプターが飛んでいる。何かあったんだろうか?

 さあ、今日最後の登り。南岳への登りだ。ここも結構疲れるんだよね。登り切ったところに「よくガンバッタ!あんたはエライ!」と岩に書かれていた。南岳小屋の人にコースの状況を尋ねる「問題ないですよ。でも急な下りですから気をつけて」と励まされる。標高差1,000mを一気に下るこのコースは左に北穂高方面、そして眼前に笠が岳を眺めながらダイナミックに下る。遠くに西穂高岳やロープウエイも見える。やったね。あそこから歩いてきたんだ〜と最後に満足感に浸ることができた。お花畑(ハクサンイチゲ、ニッコウキスゲ、イワカガミ、ハクサンフーロ、アオノツガザクラ、キンポウゲ等々)や残雪もあり楽しめる。しかし、階段、鎖が連続する急な下りは、ここは絶対登りたくないと思わせるに十分なコースである。

南岳新道より望む西穂高方面 いやあ、本当に急な下りだったと、しばし槍平小屋で一休み。そして白出沢までは沢を流れる心地よい水の音を聞きながらひたすら歩く。そして白出沢で一休み。これより林道で新穂高温泉にようやく到着した。バス停のところにある村営の無料の温泉で汗を流す。気持ちよい。しかし故障しているのか蛇口はどれもお湯は出ない。そして湯もあまりきれいで無かった。まあ、無料だからしょうがないかな…

今回の山行は天気に恵まれ、念願のジャンダルムを最高の条件で堪能することができた。そしておまけに北穂高岳まで歩くことができた。今度は奥穂高岳の方から西穂高へ歩いてみたいものだ。
ほかの写真は「いちにっ山歩」をどうぞ