朝です。まだ外は真っ暗、でも早立ちの人はゴソゴソと支度を始める。とても寝ておれない雰囲気です。雨だったら農鳥はやめて戻ろうと思っていたが、雨は降っていない。良し予定通り農鳥をめざそうと準備していたら、隣のおじさんがぶつぶつと文句を言いながら戻ってきた。私も、朝の食事をしようかと、水を貰いに言ったら「昨日言ったでしょう、朝はダメだって!もうしょうがないなあ、何にも聞いていないんだから。さっきの人といい…」とまたまた小言を言われてしまった。まあ、決めごとだからしょうがないけど、夕方5時までで終わりってのはちょっと無理があるんじゃないですかねえ。自炊の人はその後にも水を使用するんだし…
まあ、せっかく雨かなあと思ってたのにそこそこの天気、朝から気分を悪くするのもおもしろくないので、今日も素直に「すみません」と謝って水を貰った。隣のおじさんはなかなか気が収まらない「生意気な…」と(^^;;;

まだ5時前なのに、出発が最後になってしまった。でも予定通りです。親父にザックを置かせて貰うよう了解を求める。3度目に怒られないようにね。快く「気をつけて!」と送り出して貰った。厳しい山で小屋を取り仕切るには少し頑固でピシッとしていないとなかなか厳しいんだろうね。本当はいい親父なんだと自分の非を反省し、親父に挨拶をかえす「行って来ます」。できれば西農鳥あたりで日の出が見れるかもしれないとライトをつけて歩き始める。最初から急な登りだがそれもつかの間、先発した数人を追い抜き岩を右に巻いて登るとピークに立つ。ここが西農鳥ですかねえと訪ねると「う〜ん、あっちの方が高そうだけど」と先のピークを指さす。ここだと思うけどねえと、標柱があったので見ると、消え入りそうな感じで西農鳥岳と書かれていた。

農鳥岳はどれかなあと探す。あれっ?でもちょっと近そうだし、あの後ろにあるんじゃない。山頂は…等と話しながら小さく上り下りを繰り返す。岩場を右に巻いて進み、最後に緩やかに登ると農鳥岳に到着。先客が一人いた。あいにく雲がたれ込め360度のすっきりした展望とはいかないが、北アルプスや富士山、八ケ岳、塩見等は確認することができた。ここからの展望はなんと言っても富士山だ。でっかいねえ…
小屋に泊まっていた単独の男性が、塩見までピストンすると言っていたが、改めて眺めると「えっ、あんな所まで行くの…」とちょっと驚きであった。北岳方面の眺めに「いやあ、あそこから歩いてきたんだ」と遙か向こうに見える景色に感動するとともに、「またあそこまで戻るの?遠いなあ…」と思いを馳せる。
頂上には大町桂月の歌碑があった。「酒呑みて高嶺の前に吐く息は散りて…」後は難しくて読めなかった。ふ〜ん、酒を飲みながら山を眺めていたんだなあ…まさか山頂で飲んだんじゃ無いよね。こんな高山で飲んだら下りが危ないよね(^^;;;

奈良原温泉へ下る二人に別れを告げ北岳めざしてもどる。小屋に着いて真っ先に親父に挨拶する。「今戻りました」「どう大展望良かったかい?まあ、ゆっくりしていきなよ」と暖かい言葉。やっぱいい親父だなあ(^^;;;
コーヒーで一休みし、間ノ岳への登りだ。結構きついんだよね。だらだらと長いし…
中腹で一休みしていたら「きゃー」「ワー」と叫び声がした。おじさんがもんどりうってガレ場を転がっている。4〜5m落ちただろうか?幸いなだらかな斜面で大事には至らなかったがようだが、何であんなところで転んだんだろうと思った。すれ違ったとき「大丈夫ですか?」と聞いたところ、ジグザグ道のガレ場の下りでちょっと浮き石に乗ってバランスを崩したとのこと。人ごとではない。疲れたときは気をつけなくっちゃね。

間ノ岳に到着。休んでいたら少し雨が降り出した。雨具を来た途端ひどくなった。この時間になると北岳山荘から歩いてきたピストンの人も沢山いた。なんと雨具を持っていない人もいた。小屋から1時間半くらいかかるのに本降りになったらどうするんだろう…幸いすぐに小振りとなり、そして止んだ。北岳方面はガスの流れが速く様々な景色を見せてくれる。快晴に映える北岳もいいが、こんな景色もなかなか趣がある。写真を撮っていたら外国の男性が話しかけてきた。「………」なんとなく「綺麗ですねえ、霧が幻想的だし、北岳は素晴らしいね」と言っているようだ。言葉は通じなくともこの景色の与える感動は通じ合えるものがあるようだ。「霧&山、半分半分ベリーグッド。紅葉もいいねえ、北岳万歳」と片言英語で答えたら、微笑んでくれた。
北岳山荘で一休みし、トラバース道を八本歯のコルをめざす。初夏ならこのあたりキタダケソウが見られる所だが、今はもう花はあまり見られない。岩場にかけられた梯子を慎重に歩く。振り返れば農鳥岳からの稜線が遠い。さっきはあそこにいたんだなあと眺める。人間頑張れば結構歩けるもんだなあから感心する。